world is yours
□world is yours 17
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身体が動かなかった。
それは恐怖に支配された瞬間に現れた大きな背中に。
「大丈夫か」と言われた言葉が、「アヤ」と呼ばれた名前が。
安堵と息苦しさが身体を巡り、いきなり力が抜けた私の身体を力強く抱き止めたその腕が、ただ感情がじわじわと侵食していく。
交わる瞳の先。心配そうに眉間に寄る皺。腰に廻された掌が熱く身体の中心に熱を移した。
…神田さんが、好き。
わかってた。認めたくなかった。
それは好きなものがなくなるのが怖かった、だから。
ふと、瞳が変化する。神田さんの瞳に熱を感じる。
引き寄せられる感覚に畏れを抱く。
離さないで欲しいと願うのに、引き返したいとも願う。眩しい光のような感情が私の中で広がるのに。
近付く身体に竦む心。
どうしたらいいかわからない。
「か、神田さん…」
やっと発した声に彼の身体がびくりと震えた。
はっと戸惑うように離れる温もり。それは一歩、また一歩と。
切ない感覚に思わず合わせたままの両手を握りしめる。震えた心を抑えるように。そしてまた紡がれた「大丈夫か」という言葉に震える。私を気遣う言葉に感情がまたじわりと滲んで、目を背けたくなる。
誤魔化すようにもっと強く手のひらを握り合わせれば、そこにはイノセンスの感触。
そうだ、私…
「…ごめんなさい」
役に立てなかった。
最後まで、任務をこなせなかった。
結局また、神田さんに助けて貰った。
「私、全て倒せませんでした。
神田さんに、助けて貰わなかったら、私…」
どうなっていただろう。死んでいたかもしれない。でもそれはないとわかっていた。結局私はわかっていたのだ。彼は私を助けてくれると。
目が合わせられない。
俯き唇を噛む。
やっぱり卑怯だ。甘えてる。自分の役割も果たせず、神田さんに任せてしまう自分。そんなの、ずるい。
噛んだ唇を隠すように合わせた手のひらを上げる。
神田さんの顔が見れない。
情けない。いつもそうだ。危機を自分で救えない。あの時も、あの時も、そして今も。
いつだって役に立たない。武道をやっていても強くなれないこんな自分。
震えが抑えられない。
お願い、呆れないで。こんな情けない私を。いつだって何も出来ない私を。
お願い、後悔しないで。私をこの世界に連れてきた事を。
ふと、頭に暖かい感触。
びくっと肩が跳ねた。
「…謝る必要はない」
そして優しい声が降る。
「…よくやった」
優しくその触れた頭を撫でる。
「お前はよく、やった。」
言葉と共に撫でられる感触がまた肩を大きく震わせる。
震えて溢れてこぼれていくこの気持ち。
思わず見上げた。
瞬間泣きそうになり慌てて背を向ける。
…嬉しい。
私は、私は…、どうしよう、嬉しい。でも、やだ、苦しい。
「どうし…」
言いかけて神田さんが口を噤む。
その少しの沈黙に、かっと顔が熱くなる。
違う震えが身体を熱くする。
暖かい眩しい光のその中に、私の感情が溢れて苦しい。
息が、苦しい。
神田さんの言葉が嬉しい。
どうしよう、彼に嫌われたくない。私は彼が、好き、だから。
握り締めた手のひらに痺れるような感覚を感じ、は、と呼吸を乱した時、神田さんが動く気配がしてそして、伸ばされた腕に背中から、抱きすくめられた。