手をのばして抱きしめて

□手をのばして抱きしめて 第2夜
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「…ああそうだ。
イノセンスは適合者と一緒に見つけた。
…分かった。
あぁ!?知らねえよ、そんなのテメェで確認しろ!もう切るぞ」

まだ向こうで何事か騒いでるコムイを無視し、俺がゴーレムの通信を強引に終わらせた時、そいつの、女にしては少しだけ低めの落ち着いた声が部屋に響いた。

「終わった?」

濡れた髪を拭きながら俺の傍のベッドへ腰を下ろし、いつの間にか寝間着に着替えたそいつは俺へタオルを投げる。どうやらこれで体を拭けということらしい。
濡れて重くなった団服は既に脱いで掛けてあった。

「で、私はこれからどうすればいいのかな?」

「…明日朝ここを出てお前を教団へ連れて行く」

「ふ〜ん」

先程コムイから言い渡された事を伝えると、あまり興味がなさそうな答えと共に何故か酒が出てきた。

「…まだ飲むのか?」

「発動後は飲みたくなるんだもん。」

呆れたように言うとまたえへへと笑いながら酒を飲んでいる。

「それに教団行くの、遅かれ早かれ行かなきゃならないの知ってたし、まあ仕方ないよね。それにヤダって言っても無駄でしょ?」

ね?と笑ったその顔を蝋燭の灯りが照らす。

「…まぁな。
お前、黒の教団を知っているようだな。あとエクソシストの存在を。…何故だ。」

会った時から不思議に思っていた。コイツは教団のエクソシストではないのにイノセンスを発動していた事を。

「ああ、それは聞いていたからね」

「誰にだ」

「女好き酒好きのエクソシストだよ。
いつか教団から迎えがくるからって。」

…あいつか。
フラフラと何やってんだよあのクソ元帥。つかエクソシスト見つけたなら教団へ連絡位しろっつーんだよ。

思わず漏れる溜め息。

「だから一緒に行ってあげる」

そしてにんまりとして俺を見つめる女。

…何で上から目線だよ。ムカつくな。

「…さて、それならもう遅いし寝ましょうか。
ベッド一つしかないから一緒に寝る?」

ごろんと横になりベッドの片側を空け、手招きされた。

「バッ、バカかお前!?
女と一緒の布団で寝れるか!
俺はこのまま床で寝る!」

「え〜、照れてるの?
それとも男の方が好き?」

ニヤニヤしてこっちを見ている。

なんっか本当にムカつく。つーか殴りたい。

「どっちでもねーし、うぜぇよテメェ!いいからとっとと寝やがれ!!」

もうこの話しは終わりだとばかりに怒鳴りつけると、微かにそいつは笑う。

「ふふっ冗談だよ。
…でも私の名前はお前でもテメェでもなくルキ。ちゃんと呼んでよね、ユウくん。」

「だからファーストネームで呼ぶな!」

「まあ良いじゃないの。
お休み、ユウくん。」

「だから…」

その名前で呼ぶなと言い終わる前に蝋燭が消され、結局最後まで言えなかった。

「チッ」

俺は六幻を横に置いて座禅を組み、仕方なく目を閉じた。

「……ねぇ」

「……何だよ」

暗闇から小さな声が話しかけてくる。

「…もし夜中に私の様子がおかしいと感じても、決して触れたり、声をかけたりしないで。
放置プレイでよろしく、男好きのユウくん。」

「…テメェ本当にムカつく。違うって言ってんだろ」

腹立つなこの女。本気で一発殴ってやろうか。

「安心しろ。テメェがそこで死にかけてようが俺は一切触んねえからな」

「うん、そうして」

間髪入れず返ってきた声は何だか少し、辛そうだった。








ザァァァ



また雨が降り出したようだった。
浅い眠りを雨音が妨げる。
ふと、閉じた瞼の向こう側が明るい事に気が付いた。

「!?」

目を開けるとそこは火の海。
思わず傍らにある六幻を掴む。

熱く…ない?幻か?

燃え上がる炎は全く温度を感じさせない。これがファインダーの報告にあった現象か。そして一番炎が強いのは、二本の刀とこちらに横向きなって眠る女の周り。

「…ん…あ…」

吐息のような呻きが耳に入り、その声に眉を顰めて俺は無意識に声をかける。

「オイ、お前…」

よくみると微かに震えている。
薄い掛布から浮かび上がる身体のラインのシルエット。思わず唾を飲み込んだ。

…何を、考えてるんだ俺は。

そのラインと吐息が俺の頭を支配し、思わず振り払うように頭を振る。

「あ…ゃ…ん…」

「…起きろ、テメェ。
オイ!」

ふっくらした唇から漏れる声に耐えきれず声を掛けが、目を覚ます気配はまるでない。
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