手をのばして抱きしめて

□手をのばして抱きしめて 第3夜
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「黒の教団へようこそ!
僕は室長のコムイ・リー。歓迎するよ、よろしくルキちゃん!
神田くんもおかえり!」

室長のコムイが両手を広げて迎える。

「…よろしく」

俺は隣で大人しく返事をするルキをちらりと見た。








一夜明けて、朝一番のコイツのセリフは「すいませんでした!」だった。

まるで酔った勢いで生娘を手籠にしたおっさんのごとく、土下座でもしかねないコイツに、罪悪感のあった俺は拍子抜けした。
コイツが言うにはイノセンスを発動した後は決まってアルコールが欲しくなり、その後熱くない炎があがって身体中が燃えるように疼く、らしい。
そう云えば、昨夜は帰って来た後も酒をのんでいた(しかもその前に違う所でも飲んでたみたいだ)。

「ホンっトごめんなさい!」

胸の前で両手を組み合わせ、柔らかな朝日の中に立つコイツは、昨夜の滲むような色気が感じられず、むしろ幼くさえみえる。

「…いや、俺も約束を破った。」

触れるな、と、言われていたのに、俺は自制できずコイツに触れた。コイツは知っていたのに。自分がそうなる事を知っていて俺に忠告してきたのに。

「…悪かった」

俺にしては素直に謝罪の言葉が口から出た。








「話は神田くんから聞いたよ。すでにイノセンスを扱えるんだそうだね。
で、その二振りの日本刀がそうなんだね?もう武器加工されているようにみえるけど?」

ソファに座るように促しながら、コムイは自分も室長席へと腰を落ちつける。

「加工、と言っても元から刀という形状でしたし、使い勝手よくはしてもらっただけです」

朱塗りの鞘をなぞりながら微笑む。

「誰にだい?」

興味深そうな目を向けるコムイにルキはなぞっていた指を止め、見つめ返す。

「酒好きのエロ元帥にです」

「は?」

「…クロス元帥の事だ」

どんな経緯で知り合ったか知らないがあの元帥とは知り合いらしい。最もその経緯なんて俺にとってどうでもいい事だったから特に聞いてはいなかった。

「そっか、あの人か…クロス元帥とはどんな関係なのかな?」

「…昔働いていた街で会って…まあ拾われたと言うか、色々教えてもらいました。イノセンスとかここの事とかも…色々と…」

少し歯切れの悪い口調が何故か心に引っかかり俺は眉を顰めたが、コムイは気にしてはいないようで、なるほどと頷いている。
少しだけ、何故かルキのその態度が胸の奥を苛つかせた。

「それじゃ早速ルキちゃんのイノセンスを見せてもらおうか。
ここで発動できる?」

「分かりました
…イノセンス発動」

立ち上がり手に取った2本の刀をクロスさせると、朱塗りの鞘が炎となり刀身を包む。

「〜は〜、これは見事だね。」

コムイは感嘆の声をあげた。
実際、美しかった。
熱くない炎が大小の刀に踊るようにまとわりつき、鍔から下がった朱色の組紐が揺れる。

…瞳が、紅い。

揺らめいた炎が写る瞳も紅く変化しているのに俺は気付き、その瞳にぞくりとした。

「…なるほど、鞘ごとイノセンスってワケなんだね…面白いな。
ありがとう、もういいよ」

にっこり笑ったコムイにルキも笑顔を返して発動を解く。

「詳しい事は後でまたヘブくんの所に行くとして、一つ気になる事があるんだ。」

机を指でトントンと叩きながらちらりと俺に向けられた視線。

「昨夜神田くんからの連絡で、拳銃でAKUMAの動きを止めた、というんだけど、その拳銃も見せてもらっていいかな?」
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