手をのばして抱きしめて

□手をのばして抱きしめて 第4夜
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…疲れた。

今回の任務は本当に疲れた。
もちろん体力的ではなく精神的にだ。
とりあえず俺は風呂にでも入って部屋で休もうと、団服を脱ぎ白いシャツに着替えて、俺は浴場へと向かう。








教団へ戻る列車のなかで、ルキは全くと言って言い程普通だった。
というかアイツは寝倒していた。
おかげで集中して報告書が書けた…という事はなく、目の前の席で眠る規則正しい呼吸音が昨夜の出来事を思い出させ、俺を悶々とさせていた。

ルキの吐息のような甘い声。
熱くとろける身体。
抱きしめてくる腕とそしてその紅く潤む瞳。

俺も男だ、女くらい買う事もあるし、逆に向こうから誘われる事もある。
…だから今更女如きに。

断片的に浮かぶ映像を、追い出そうと頭を振る。
ただ、ルキの身体は今まで抱いたどの女よりも異質な気がした。

あの蓮…痣だろうか

胸の谷間に咲く花を思い出す。
あれを見た瞬間に、理性が飛んだ。

俺にだけ見える蓮。まさかあの蓮も俺にだけ見えるんじゃないだろうな。

自嘲気味に口の端を上げる。
確認したい気もしたが、朝起きたらすでにルキは着替えていて、それは出来なかったが。

…あの身体、今度はじっくり抱いてみてぇな。

眠るルキを眺めながらそう思った時、ハッと我に返った。








風呂の扉を開け脱衣場へ足を運ぶ。

呼び方を直させておいて正解だったな。

教団へ戻る道すがら、ルキの『ユウくん』呼びを、何とか名字で呼ばせる事に成功し、胸をなで下ろしていた。
これ以上コムイに言われるのもイヤだし、妙に勘の良いラビに何か嗅ぎつかれるのも面倒だ。

服を脱ぎ脱衣籠へ入れる。

「え〜どうして?いいじゃん」と騒ぐルキに、名前で呼ばれるのが嫌いだ、とはっきり言うと、眉を下げ少し悲しそうな顔をしたが、存外あっさりと「分かった」と小さな声が返ってきた。

…あの時の顔、少し庇護欲をそそられた。

思い出す表情。置いて行かれた子供のような表情。
頭を撫でてやりたくなるようなそんな、顔。

「チッ」

舌打ちをする。ルキを見てるといつもの自分が維持できない気がするのだ。
結っていた髪を下ろそうと腕を上げた。

「お〜ユウ。任務から戻ってたんさ?」

後ろから声を掛けられ振り返ると、ウザイ赤毛兎が手にお風呂セットを持って立っていた。

「…」

無視して浴室へ向かう。

「ちょっ、ユウひどいさ〜、無視しないで〜」

「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇよ」

ギロリと睨み付けるが相変わらずコイツは全く気にしない。

「そう言えば新しいエクソシスト、ユウが連れてきたんだって?
ルキ、マジでストライクさ〜」

「…会ったのか?」

立ち止まり兎を見ると、いつの間にか服を脱ぎ終わりこっちにやって来た。

「さっきリナリーに案内されてる時にさ」

ガラリと浴室へ足を踏み入れる。
ゆっくり一人で入りたかった俺は内心舌打ちをした。

「瞳がくりっとしてて声も落ち着いてて、身体のラインが妙にエロくてさ〜。
そそられる身体付きっつーの?」

「…」

ざばりと掛け湯をし洗い始める横に並んで、兎がベラベラ話しだす。

「…でさ、握手しようと手を出したんだけどさ」

ピリッと背中に軽い痛みが走る。

何だ?

気にはなったが面倒だったのでそのままにしておく。
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