手をのばして抱きしめて
□手をのばして抱きしめて 第5夜
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『神田っ!』
夜中にゴーレムが鳴った。出るとリナリーの焦った声が聞こえてくる。
『良かった、出てくれて。
ルキが大変なの!急いで部屋まで来て!!』
部屋は私の部屋の隣の隣だから!そう一方的にまくしたて、一方的に切られた。どうやら俺に拒否権はないらしい。
「チッ」
仕方なく俺は部屋を後にした。
教えられた通りに行くと、その部屋は探さずともすぐにわかった。
燃え上がる炎が暗い通路を照らす。
リナリーが、駆け寄ってくる。
「ごめんなさいこんな夜中に。でもどうしたらいいのかわからなくて、兄さんに聞いたら神田ならわかるかもって…。
今ラビが部屋の鍵を取りに行ってくれてるわ。」
…コムイのヤツ…余計な事を。
燃あがる部屋のドアを眺め、俺は溜め息をついた。
「お待たせ〜。ユウも来たんさね。はい」
兎が走って来て俺に鍵を渡す。
「…ほっとけばいいだろ」
手の平の鍵を眺めて溜め息をつくと、2人は顔をしかめた。
「「ひどいわ(さ)!」」
声を合わせて俺を非難してくる。
「炎の原因はあいつのイノセンスだ。火事じゃねぇよ。放っとけ」
「確かに熱くないし、煙も出てないわ。だけど心配じゃない。放ってなんかおけないわ!」
リナリーが手の中から鍵を引ったくる。
「オイ、待て!」
俺の制止も聞かず、鍵を使いドアを開けた。
「…これは…」
兎が息を呑む。やはりベッドに横たわるルキと、サイドに立てかけてある刀のまわりが特に炎が強い。2人は慌ててルキの枕元に寄っていく。
昨夜と同じ状況だ。
そう感じた時、ルキの声が漏れた。
「は、ぁ…ん」
小さく唇が動く。
マズい…この状況は非常にマズい。
兎はその声にぴたりと固まっている。
「…なんかルキ、エロいさ」
ボソッと呟く。
「何言ってるのよラビ!
ルキはこの状況で大丈夫なの?」
リナリーは固まる兎を睨みつけた後、最後のセリフは俺に振ってきた。
大丈夫じゃねぇ、よ。
ルキがじゃない、俺が、だ。
昨夜を思い出してしまう。ルキの身体や声、そして甘い香りを。
「とりあえず起こした方がいいんじゃね?
オーイ、ルキ、起きるさ〜」
兎が手を伸ばす。
「コイツに触るな!!」
反射的にルキと兎の間に入り勢いよくその手を弾くと、2人が驚いた顔で俺を見た。
他人に触られたくない。
何故かそう思った。
「何さユウ」
兎が何か言いかけた時、後ろでルキが身じろぎをする気配がする。
マズい。
もし今、目覚めたら?そしてその瞳が紅かったら?
…あの瞳を、他のヤツに見せるのか?
俺はルキのその瞳を見られたくなくて、とっさに兎に背中を向けて抱き寄せて、その顔を胸に押し付ける。
「…コイツは大丈夫だ。
俺が後をみておく。だから出ていけ」
「でも神田…」
リナリーが心配そうに俺に抱きすくめられているルキを見る。
「大丈夫だ。
いいからこの部屋から出ていけ」
振り返らず再度同じセリフを繰り返す。一瞬、兎が俺に何か言いたそうに口を動かしかけたようだが、結局何も言わず、促すようにリナリーへと向いた。
「大丈夫らしいから部屋戻るさ、リナリー」
「でも…」
まだリナリーは躊躇うが兎が構わずその背中を押す。
「…炎も収まってきてるみたいだし、オレたちは帰るさね。」
そう言って2人は部屋を後にした。