手をのばして抱きしめて

□手をのばして抱きしめて 第8夜
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「ユウはズルいさ〜」

部屋で六幻の手入れをしていると、勝手にバカ兎が入ってきた。

「…何がだ。
おい、勝手に俺のベッドに寝ころぶな。
あとファーストネームで呼ぶんじゃねぇ」

睨みつけると兎は起き上がって肩をすくめ、「おお怖い、ユウは要望が多いさ〜」と呟いた。

「だってルキをずーっと独り占めじゃん」

コムイもそれを許可してるしさ、とぼやいている。

「テメェには関係ない」

無視して六幻の手入れを続ける。

「もうそろそろ、オレ達を信用してくれてもいいんじゃないかい?」

おどけるように言うバカ兎に、止まる俺の手。

「ルキの体質の事、オレっちが知らないと思ってますぅ?」

「…何で、」

それを、と振り返りながら言いかけて思い出した。
そうだ、コイツはブックマンjrだった。コムイから何らかの相談を受けている可能性がある。

「だ〜いじょうぶさぁ。
ユウの大切な彼女を取ったりしないさ」

だってオレら仲間だし、と俺へと送る胡散臭い笑み。

「…彼女じゃねぇ」

「でもルキを抱いてるんだろ?」

ユウは好きでもない女を抱けるんさ?

真剣な眼差しを受け、思わず目を逸らして黙り込んだ俺に、兎は溜め息をつく。

「まぁいいさ。
ユウがルキをどう思っているかは置いといて、彼女ではないという事は」

トンっと勢いよくベッドから降りる。

「オレがルキの彼氏になっても問題ない、と」

そう言いながら次に送られたのは不適な笑み。

「…」

黙って俺は立ち上がり、手にしていた六幻を兎の首もとに当てる。

「…何で怒るんさ?
ユウには関係ないんだろ?」

「…あいつは俺のだ」

地を這うような声を出しても兎は怯まない。

「付き合っていなくてもユウのなんさ?」

「そうだ」

間髪入れず答える俺に兎は苦笑した。

「今はそうかもな。
だけどユウ、考えた事があるか?」

もしルキと最初に会ったのがユウじゃなくて、例えばオレだったら。もしかしたらユウの今いる位置にいるのはオレかも知れないんだぜ?

「っ!」

考えた事がないとはいえない。
でも考えないようにしていた事実。

「結局のところ、ユウの気持ちがどうこうと言うより、ルキの気持ちはどこにあるんだろうな」

少し哀しげに言う兎の言葉に、俺は六幻を握る手が震えそうになった。
確かにルキの気持ちを聞いた事はない。
だがあいつは言っていた。
俺といると安心すると。身体が合うとも。俺もそうだ。欠けたピースが合うように、ルキは俺の為にある女だと思う。いや、そう…思いたいんだ。

「…それでも、ルキは俺のだ」

カチャリと刀が鳴る。
俺の言葉に少しの沈黙。

「…なら賭けようぜ」

読めない表情で静かに兎が切り出す。

「オレはルキと任務に行く」

「ダメだ」

「いいから聞くさ。
それでもしオレがルキを抱いたらオレの勝ち、抱けなかったらオレの負け」

どう?

そう言って問いかけるように広げた手。

「…嫌だと、言ったら?」

「ルキの気持ちを考えていないとコムイにでも言うさ」

「卑怯だな」

「何とでも言うさ。
ルキを狙っているのはオレだけじゃないんだぜ」
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