手をのばして抱きしめて
□手をのばして抱きしめて 第19夜
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ルキが意識を飛ばしてまた眠りにつく。その額に一つキスを落とし俺は団服を着て部屋を出た。
室長室に向かう。
コムイに会って謝らなければいけない。
「勝手をしてすまなかった」
素直に頭を下げると、コムイは少し驚いていたようだがすぐににっこりと笑った。
「その様子だと仲直り出来たみたいだね。」
「ああ。
…何でもする」
そう言って見つめる俺を今度は真面目な表情で見た。
「そうだね、新しい任務を伝えたとは言え、任務放棄した事は変わらない。」
手を机の上で組む。
「罰として神田くんには長期任務に出てもらうよ」
思わず固まった。
ルキとまた暫く会えなくなる。
正直、キツかった。
だがこれも仕方がない事だ。
「…わかった」
従おう。
低く答えるとコムイは俺に書類を渡し、淡々と説明を始める。
「今回の任務は少し遠いのと、LEVEL3が二体確認されている。
更に割とその近くでもやはりLEVEL3が一体、LEVEL2が二体だ。イノセンスは確認できてはいないが、ある確率は高いという報告がある。そっちにも行ってもらうよ。」
受け取った書類に目を通していると《同行者》の欄に目が止まり、思わず俺はコムイを見た。
「…ルキちゃんも一緒の任務だよ」
優しくその目を細めて微笑んでいる。
「…コムイ」
堂目する俺に話しを続けた。
「ちょっと一人じゃキツい任務だからね。神田くんと息の合うエクソシストを選んだんだ。
シンクロ率の事もあるけど、神田くんと一緒なら大丈夫かなと思うし。それに…」
まぁボクなりの罪滅ぼしかな。
そう言って投げられるウィンク。
「神田くんとルキちゃんをわざと同じ任務にしなかった。少し神田くんに頭を冷やして欲しかったのもある。ただルキちゃんがあそこまで神田くんを避けるとは思わなくてね」
そうしてハァとため息をつき、自嘲気味に笑う。
「結果、ルキちゃんのシンクロ率が下がってしまった。こんな事なら強引にでも同じ任務につけるべきだったと思うよ。
だからまぁ、罪滅ぼしってワケ。」
確かに全く同じ任務がなくなった事に、コムイが絡んでいるだろう事は容易に想像はできた。
しかしその口振りはある程度の事情を知っているのが伺える。
「…兎か」
「心配してたよ、君達2人の事。
昨日の神田くんの任務もラビがすぐに行ってくれたんだ。」
最近任務で兎と一緒だった時はルキとの事を何も言われなかったし、聞かれたりもしなかった。
「…兎は?」
「まだ戻ってないよ」
「いつ戻る?」
「多分明日の夜だとは思うけど、神田くん達の任務は明日の早朝からだ。残念だがすれ違いだね。」
任務の書類を持って立ち上がる。
「明日、兎が戻ったら、礼を言っといてくれ」
長期任務の準備の為に出て行こうとすると、呑気な声が呼び止める。
「明日早いから、今日はもうルキちゃんを疲れさせちゃダメだよ?
これは命令だからね?」
ニヤリとするコムイに顔に血が集まるのを感じる。
「ま、これも任務放棄の罰の一つだとでも思って、今夜は大人しくする事だね。」
コムイのセリフに、俺は返す言葉もなかった。
翌日の夕方、ルキと2人、一つ目の任務地の街に到着しファインダーと合流する。
どうやらAKUMAは夜半過ぎに街の外れの、今は使われていない古びた集会所に現れるらしい。
「その集会所にイノセンスでもあるのかな」
ルキは宿でのんびりとお茶を飲んで時間を潰している。
「今の所確認はされていないみたいだ」
六幻を部屋のベッドに立てかけて、俺はベッドに腰掛ける。
「時間まで少し休むか?」
聞くとルキは首を横に振って、にっと笑った。
「実は良さそうな酒屋を見つけたのよね
ね、行ってきていい?」
嬉しそうに言うコイツに俺は溜め息をつく。
「…お前、何だかんだ言って酒好きだよな」
座った腰を上げ、また六幻を持つ。
「一緒に行ってくれるの?」
「まあな」
ぶすっとして答えるとルキが笑い出した。
「…何だよ」
「くくく。本当にユウって私の事、大好きだよねぇ」
笑いで震えた声に軽く睨んでやると目の端に涙すら滲ませている。
「そんなに私と離れたくない?」
ルキも立ち上がって俺の前に立ち、小首を傾げる。
「…まあな」
素直に答えると驚いたように瞳を見開き、優しく今度は微笑んだ。
「素直なユウってかわいい」