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□王(俺)様とオレ
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※ラビ視点
最近のユウはなぜか機嫌がいい。
初めは気のせいか?相手はあのユウだぜ?と思っていたが、観察を続ければ続ける程、それは確信へと変わった。
「ユウ、今日も美人さ〜」
「ユウ、昨日の試験はちゃんと点取れた?」
「ユウ、この前休んだの眠かったからさ?」
などなど、いつもなら誉めようがからかおうが余計な事を聞こうが、問答無用で恐ろしい睨みと共に鉄拳制裁が待ち受けていたものだが、最近は少し力加減をされている気がする。
なぜだろう、そう考えて観察をしたオレはすぐにある事に気付いた。
それはユウの頭に揺れてる赤い髪紐。
ちょっと歪なそれ。
正直こんな金持ち学校(ちなみにオレは特待生なので学費は免除されている。さすがオレ)で、んな適当な感じのアイテムを使ってるヤツは珍しい。
「な、ユウ、その髪紐さ…」
「……」
思わず聞いてしまったオレをユウは無言で睨む。けど心なしかしかめた眉が下がってる気がするのはオレの気のせいさ?
「…何さ」
「別に」
で、続いた言葉は「テメェには関係ない」。
まあ確かに関係はないが、なーんか面白そ、と余計な興味を持ってしまうのはオレの悪い癖か。
「ふーん」
「…んだよ」
「べっつにー?あ、そういえばちょっと前に聞いてた問題、解決したさ?」
「問題?」
「うん、例のメイド服…ってユウ?」
驚いた。これ夢かな。ユウが、あのあんまり表情を面に出さない(怒ってんのは別)ユウが、顔を赤らめている。
こりゃレアだわ、と携帯を取り出してパシャリと写真を撮ると、「何してる!」と怒られた。
「まあまあ。でもどしたん?んな顔赤くして」
取り上げようと延びてきた手をオレは華麗に避けて、携帯を死守しながら聞けば「うるせ、帰る!」と言って、赤い顔のまま帰って行ってしまった。まだ授業残ってんだけど?と言うオレの言葉は完璧スルーで。
そしてその怪しい様子にオレは、むむ、これは何かあるさ!と睨み、ユウのうちにゲリラ訪問する事に決めた。授業の全て終わった後、つまり放課後に……真面目だな、オレ。
「……何しに来た」
開口一番、つれない言葉と共に睨まれる。苛立った指先がテーブルをコツコツ叩く。
「いやぁ、授業ほっぽりだして帰っちゃったユウちゃんが心配で」
「名前で呼ぶな。しかもちゃん付けすんな」
いきなり訪ねたオレをユウの部屋まで案内してくれたのは、このうちのメイドちゃん。
しかし出てきたそのメイドちゃんにもオレは驚いた。
「…やっぱ問題解決したんじゃん」
「…本当にお前、帰れ」
眉間の皺が深くなる。
テーブルを叩く指は更に早くなる。
「でもユウが早く帰るのも無理ないかもな、あーんなかわいいメイドちゃんがいたんじゃ。しかも…ミニスカの」
コツ、と指が止まり音も止まる。
ユウの険しくなった表情に気づかないふりをして、オレは「ミニスカメイドなんていいよな〜萌えるよな〜中見てぇな〜」とニヤニヤ笑ってユウが叩いていたテーブルに肘をつくと、「ふざけんな」といきり立ってついでに立ち上がる。
「言ってる意味がわかんねえよ!
いいからとっとと帰れ!」
今すぐにでも出ていけと言わんばかりに扉を指差して怒鳴りつけられたが、それをオレは軽〜く聞き流して、テーブルに頬杖を付いてまたニヤリと笑う。
するとまた顔を赤くするユウに、オレは「ふーん、なるほど」と内心苦笑した。
つまりはまああれだ、あんまりオレに詮索されたくない何かがあるわけね、とその様子から察したオレはかなり頭がいいと自分でも思う。つかユウ、分かり易すぎ。
「ユウってさあ、」
「ああん?」
「好きっしょ?メイドちゃんの事」
「……」
急に止まり黙り込む。でも瞳だけはまるで射殺さんばかりにオレを睨むが、気にもとめない。だってユウは大事なオレの友達。だからほっとけないじゃん?…こんな楽しそうな話。
「照れるなよ、ユウ」
「誰が!」
「仕方ないさ、あんなかわいくていい子とずっと一緒にいたら、そんな気持ちを持っても」
「何をだよ!」
「でもそれはそれで気を遣うよな〜。好きな子とひとつ屋根の下に住んでるんだから、」
「テメ、ラビ…」
「大変っしょ?…理性とか」
「〜〜〜っ」
もう怒りか照れかわからない。
ユウは動揺からかぐるぐる目を廻しながら、「あ〜」とか「う〜」とか唸ってる。そのあまりにも珍しい様子が妙にかわいいな、と思ったけれど、んな事言ったら絶対半殺しだから言わない。
「…んで告白とかしたワケ?」
「こっ、こくは…っ」
赤い顔のまま絶句する。
ああこの様子だとまだだな。ユウって恋愛は疎いからなあ。しかもきっと素直になんてなれないんだろうなあ。
ふうと息をついて天井を仰ぐオレ。
そんなオレにユウは動揺から立ち直ったのかまた、「いいから帰れ!」とまた怒鳴る。はいはいわかったさ〜。
「邪魔者は帰れって事さね」
「な、」
「だって早く2人っきりになりたいんだろ?」
「違っ」
「早退までして早く会いたかったわけだし?大好きなメイドちゃんにさ」
「〜〜〜うるせぇ!!」
「あ、否定しない?やっぱ好きなんじゃん」
「ち、違う!」
「まあまあ落ち着いて。今更そんなに意地張らなくていいさ、ユウ」
「あ゙〜もう!
違うって言ってんだろ!この馬鹿ウサギ!!
あんなどんくさくて間抜けなバカメイド、ただの使えない使用人だ!!」
ガチャン
何かが背後で割れた音。
振り返ればお茶を持ったミニスカメイドが困ったように、それでいて泣き出しそうな表情で立っていた。
…なんかもう、ありがちの展開過ぎて逆に笑えない。
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