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□王(俺)様と勤労感謝
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「…もう止めませんか、こんなこと」

いたたまれないんですけど、そう言って俯くと、両手で抱えるように持っていた紅茶の水面に映る困った表情の私がいた。
いったいどうしてこんなことにって、ことの発端はなんだっけって、首を傾げれば手に持ったカップも揺れて映っていたその私の顔は消えて、代わりに映ったのは、

「そう言わず、紅茶をもう一杯いかがです?…お嬢様」

澄ました表情でそう言って、ティーポットを掲げる私の雇い主、神田ユウ様…なんですが!!

「だから!その『お嬢様』ってのも勘弁してください!ユウさまあああ」

今日は勤労感謝の日だ、から始まったこの状況。
普段の私の勤労を労う為に今日一日は私がこのうちの『お嬢様』、んでユウ様がその『お嬢様の執事』、という設定になっているらしい。けど本気で恥ずかしくていたたまれなくて、どう対応したらいいかもわからなくて、もう土下座(慣れてるし)でもなんでもしますからこの状況はホントに勘弁して欲しいんです、といった目で恨みがましく見つめれば、にやありと目元を歪めたユウ様が「おや、俺…じゃなかった、ワタシになにかご不満でも?」ときたもんだ。
だってご不満、っていうよりこんなユウ様は気持ち悪いし気味悪い。でもこれを正直に言えばきっといつもみたいに怒鳴られてしまうので言うに言えない…って、あ、いいのか、それで。

「ご、ご不満と言うよりその、ユウ様が気持ちw…いった!」

「ああ!とんだ粗相をしてしまいました。申し訳ありません、お嬢様」

「…う、」

だから素直に言おうとしたのに、執事らしくアスコットタイを付けたユウ様に(わざと)足を踏まれ、思わず呻くとそのユウ様が私の足下に颯爽と跪く。くう〜顔がすごく整ってるから絵になるなあ、なんて思っても絶対言いませんからね!なんか悔しいっていうか間抜けな私なんかよりよっぽど堂に入ってるなんて言いたくありませんからね!、って、あれ?ちょ、ユウ様何をなさいます?

パチン、パンプスのストラップを外された。ついでするん、脱がされた。

「な、なにして…」

「怪我がないか拝見」

…拝見、って、丁寧な言い方してますが、その表情はとてもじゃないけど執事って感じじゃあなくて、あるのはいつもに増して意地悪な笑いを浮かべるユウ様です。

「けけけ結構です!」

「お嬢様のおみ足に傷がついては大変ですから」

消毒を、しれっとそう言って持ち上がる私の足。ついでに持ち上がるスカート…あ、そうそう今日はいつものメイド服ですがエプロンはしてません。ユウ様に奪われて隠されましたからね。もうユウ様の気まぐれにはいつも振り回されて本当に困っ…とかそんなこと考えてる場合じゃなーい!見えるから!その位置からじゃこの短いスカートの中身が見えちゃいますから!!

「やややややめ…」

「…命令なら聞く」

「そんな…!」

恭しく掲げられていく私の足。
目の前で跪いて片方の靴下を手際良く脱がす、そのユウ様の表情は見えないけれど、微かに口端が上がっているのだけはわかる。もう絶対これ楽しんでるとしか思えない。なにが勤労感謝の日だ。余計に神経がすり減るんですけどーー!

「…少し、赤くなってるな」

敬語はどうしました!?ユウ様今執事じゃなかったんですか!?
そう言おうにも恥ずかしさがどうにも勝って固まったみたいに口は動かない。それに普段見慣れないユウ様の執事姿も、普段と違う妙に色っぽい(なぜだろう)雰囲気も、私を混乱させてもう身体が心臓だ。いや心臓じゃないけどでもそれっくらいばくばくうるさくて、ユウ様もう勘弁してくださいこれ本当は新しい罰ゲームとかじゃないんですか?と訴えたいのにまるで唇を塞がれたみたいに声が出なくて、上がっていた口端、それが下がった、そう思ったときには、

「…ぁ」


ちゅ、


小さなリップ音。
私の素足に触れた感触。それがユウ様からもたらされたものだと考えてしまったら、私の頭の中は真っ白になった…なんでしょうか、今のは

「…どうかなさいましたか?」

お・じょ・う・さ・ま


恭しく私の足を掲げたままのユウ様が一語一語区切りながら、ゆっくりと妖しい(むしろ怪しい)笑みを浮かべ上目遣いで見上げてる。

…これはわざとです、絶対わざとです。しかもなんでしょうか口端が楽しげなのにすっごく色っぽく感じてしまうのは、気のせいでしょうかどうなんでしょうか。ああでもお顔が整ってるだけに様になりますこんな執事さんがいたらお嬢様はイイコにするしかないじゃないですか…!

「…まだ痛みますか?」

直視できずに逃げかけそうな私の思考はまるで無視。言いながら再び私の足先に唇を落とそうとしたユウ様に、マジでもう勘弁してください〜と足を引っ込めようとしたのだけれど、足首をガッチリと捕まれてしまってはそれも叶わない。

「…嫌なら、命令すればいい」

「〜〜〜」




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