カレーの神様

□カレーの神様 1皿目
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お父さんが死にました。
家に帰ったら電話があって、仕事中に事故で死んでしまったそうです。
遺体は見せて貰えませんでした。かなり損傷が激しくとても高校生の私には見せられないそうです。
私には他に家族はいません。
母親は元々心臓が弱く、私を産んでからはしばらく家にいましたが、私が小学生に上がる頃には入院してしまい、その後ずっと病院にいて、その長患いでうちにはたくさん借金がありました。ただ皮肉にもお父さんが死んだ事で保険で全て返済できてしまいました。複雑な心境でした。




1人になってしまいました。




『えみる、いつから学校に来るの?』

同級生のリナリーからのメール。
私は返事を返さずに携帯をベッドへ放り投げた。
私が喪主を務めたお葬式が終わって、早一週間。親戚達は私をどうするかで話し合っていたが、結局、来年には大学生になる私はこの家に一人でいる事を望んだ。今更他人の家で肩身の狭い思いをしていたくはなかったし、何より思い出のあるこの家から離れる事が嫌だった。
親戚達もやはり面倒なのか冷たいのか、それに一も二もなく了承して、私の言い分は通り、今こうしてこの家で一人暮らしをする事になった。

学校か…

皆の同情に満ちた顔が今にも目に浮かぶようだ。
正直その顔はいちいち父親が死んだ事を確認されているようで気が滅入る。しかし出席日数を考えると、そろそろ行かないといけないだろう。
溜息を一つついて立ち上がると、お腹が鳴った。そういえばここ最近、まともにご飯を食べてない事に気が付く。
久しぶりにお父さんが大好きだったカレーでも作ろうか。仏壇に供えたいし。
あまり料理が上手くない私が唯一美味しく作れるカレー。借金を返す為に働き詰めだったお父さんは、カレーが大好きだった。
財布を握り、夕闇迫る町に買い物に出る。
近道の公園を抜けようとすると、ベンチに見知った顔。

神田先輩?

長い髪を後ろに結び、端正な横顔に夕陽が当たっている。
うちの学校はエスカレーター式で、神田先輩は去年まで同じ高校に通っていた。高校時代は全国一位の剣道の腕前で、かなりモテていた人。私の友人であるリナリーの幼馴染みで、その関係で何度か話した事があるくらい。言ってみれば顔見知り程度の付き合いだ。なので何となく話しかけた方がいいのか躊躇う相手でもあった。

気付かれたら挨拶位しよう。

さり気なく前を横切るが、腕を組み目を瞑る先輩は、私に気づかないようだ。
少しほっとして私はそのままスーパーへと足を運んだ。

じゃがいも、玉ねぎ、人参、豚肉、それとカレールー。

必要なものを手に入れて、スーパーを出ると、大分陽は傾き薄暗くなってきていた。
公園をまた通ると、買い物中にはすっかり忘れはてていた先輩が、まだ、いた。

何してんだろ、この人。確か大学の寮に入っていたと思うんだけど。

若干不審に思いながらまた前を横切る。
ガサリと袋が鳴って、先輩の視線がこちらに向いた。

「こ、こんにちは、じゃなかった、こんばんは。」

目が合ってしまったので仕方なく挨拶する。先輩は一瞬カッと目を見開くが、すぐにもとのだるそうな表情に戻った。

「…お前か」

「何してるんですか?こんな所で」

愛想笑いを浮かべて言うと大きい溜息をつかれた。

何か聞いちゃマズかったかな。

二人っきりで初めて話したので何を言ったらいいかわからない。それに私自身も今は他人に気遣う余裕もない。

「……」

「……」

二人で黙り込んだ空をカラスがカァカァと鳴いている。

気、気まずいな。

居づらくなって手に持ったビニール袋を持ち替えると、先輩の眉が上がった。
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