カレーの神様

□カレーの神様 3皿目
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お父さんが死んで、初七日が終わったばかりです。
なのに何故か神田先輩が私の家にいます。
天国のお父さんは怒っているかもしれません。さばけてましたが普通に常識のある人でしたので。
悪いと云うか勝手なのはもちろん神田先輩なのですが、キチンと断れない私に対しても怒りそうです。
ごめんなさいお父さん。でも不可抗力なんです。





学校にいきました。






朝も何故か神田先輩と向かい合ってご飯を食べているこの状況。
午前中は大学の講義がないと言う先輩に、仕方なく、家の鍵を預けた。

「鍵はポストにでも入れといて下さい。」

面倒くさそうに頷く神田先輩に、不安を感じながらも私は学校に行く。
昨夜は結局あの後先輩を泊める羽目になり、濡れた服の着替えを出すやら、お風呂の用意をするやら大変だった。
会った時に手ぶらだった先輩は、もちろん着替えなど持っておらず、お父さんの予備にとストックしてあったトランクスをあげた。うん、あげた。返して貰っても困るし。
ちょっとその強引さにムカついてはいたので、ストックの中からピンク地にリラ〇クマのキャラクター柄を渡すと、かなり嫌な顔をされたが、何も言わなかった。
そして今、そのトランクスをあの神田先輩が履いているのかと思うと、笑える。ちょっとだけ、胸がスッとした。
だいたい大して親しくもない人を家に泊めるなんて、私もどうかしていたのだ。しかも男を。
やはりいつもと心持ちが違ってしまってるんだろうなぁとは思う。今まで私を支えていた棒がなくなって、ふらふらよろよろ、安定しない。
何だか考えるのも億劫で、流されるままに先輩を家に泊めてしまった。もちろん先輩には客間に寝て貰ったが。
うちはお父さんのお父さん、つまり私の死んだおじいちゃんが建てた家で、建物は古いが部屋数だけはいっぱいあるのだ。
何があったかは知らないが、ちゃんと寮なり実家なり、帰ってくれるといいんだけど。
高校の門をくぐり溜息一つ。
私昨日から溜息ばかりついてる気がする。やばい、幸せが逃げる。これ以上逃がしたくない。それもこれも神田先輩のせいだ。
ぶつぶつと独り言を言いながら下駄箱で靴を履き替える。
…ちょっと待てよ。
私がいないのにあの人が一人で私の家にいるこの状況。
これって、かなり不用心じゃない?
リナリーの幼馴染みとはいえ、あまり親しく話した記憶もない。どんな性格かもよくわからない。
さーっと顔が青くなった気がした。一人家に残してきた先輩が急に心配になってくる。
いやでも剣道で全国一位だし、武士道だし、大丈夫。うん、大丈夫な筈。
若干的外れに自分を強引に納得させながら、教室の扉を開けると、皆が一斉に私を見た。
取り立てて言ってはこないが、その視線が物言いたげだ。
うわ、何か視線が重苦しいよ。

「お、おはよ」

久しぶりの自分の机に鞄を置くと、友人がこっちに向かってきて私に抱きついた。

「おはよう!えみる」

リナリーだ。

「おはよう、リナリー」

「もう、メールしてもちっとも返信ないし、心配してたのよ?」

「あ〜、ごめん」

そう言えば昨日はバタバタしてて返事を返すのを忘れていた。

「おうちの方はもう落ち着いたの?」

私の顔を覗き込みながら聞いてくる。クラスメイトが耳をそばだてているのを感じた。

「うん、平気だよ」

周囲に聞こえるようにはっきりと口に出すと、周りの様子が和らぐ。重苦しい視線が緩和されたようだ。
誰だっていつかは死んでしまう。たまたま私の両親が早かっただけ。目の前にいるリナリーだって両親がいなくてお兄さんと二人暮らししている。
だからあまり、同情とか、気遣いとか、そういうのは止めて欲しいのだ。余計につらくなりそうだから。

「ねぇ、リナリー。ちょっと聞きたい事があるんだけど。」

話を変えるように笑うと、彼女も笑顔を返してくれた。うん、リナリーはわかってる。

「神田先輩ってどんな人?」

私のこの質問にリナリーは目を見開いた。
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