カレーの神様
□カレーの神様 5皿目
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お父さんが死んですぐに大変な事になってしまいました。何だかんだと流されてしまった私の性格に問題はあるとは思います。ですが私だけのせいでもないとも思います。ああでも、そういえばお父さんはあまり怒らない人でした。思い返せば怒られる程、一緒にいる時間も少なかったからです。天国のお父さん、どうか怒らずに、私を見守っていて下さい。
同居することになりました。
「夕飯は蕎麦がいい」
「何勝手な事言ってんですか」
「暖かい天ぷら蕎麦だ」
「…出前でも取りますか?」
「いや、俺が打つ」
玄関先で剣道の防具と竹刀を担ぎ、神田先輩は当たり前と言わんばかりに私を見た。
「お前は食材を揃えろ。もちろん蕎麦粉もだ。」
天ぷらはカボチャに、ししとうだ。
相変わらずマイペースに勝手に指図して、先輩は剣道の道場に練習に行ってしまった。
結局、あのまま昨夜は神田先輩をまた泊めて、今朝に至る。
今の様子だと、今晩もうちに戻って来る気らしい。しかも蕎麦まで打つ気だ。
なんでこんな事になっちゃったかなぁ…。
こんなに自分が流され易いとは、正直思ってもみなかった。
「…とりあえず、勉強でもするか」
昨日持って帰ってきた重たい鞄を思い出し、私は二階にある自室に向かう。
昨夜はまた二人でカレーを食べ、その後は先輩がお皿を洗ってくれた。ご飯を食べさせてもらった礼だとは言っていたが、それ以上の礼を貰わないとこっちは割に合わない。私を守るとか何とか言ってもいたが、結局こうして朝早く剣道の練習に行ってしまった。
本当に一緒に住む気なのかなぁ。
いきなりの展開に頭がついていかない。
自分勝手で人の話しを聞かない。全くアレンが言ってた通りだ。リナリーは優しいとか何とか言ってはいたが。
「はぁ」
もう本当に昨日から溜息ばかり。私の幸せこれから10年分は逃げて行った気がする。
私は鞄を開けて教科書を開いた。
どれ位の時間が過ぎたのだろうか。集中していたせいか時間の感覚がない。時計を見るとお昼の12時をとっくに過ぎていた。
お昼ご飯でも食べようか。
区切りのいい所で一旦教科書を閉じ、カップラーメンでも食べようと台所へと行きお湯を沸かす。
基本的に料理はリナリーみたいにあまり上手くないし。
彼女がよく学校に持ってきてくれる手作りのお菓子は、いつもおいしい。
…リナリーといえばコムイさん、来るのかな。
昨日リナリーが別れ際に言ってた事を思い出す。まあでも事前に連絡位してくるだろうと思い、買い置きのカップラーメンを漁っていると、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
「はーい」
返事をして沸かし途中のコンロの火を止める。
ピンポンピンポンピンポン
…この鳴らし方は…
玄関に向かいながらチャイムの連打を聞く。
扉を開けるとやはり今考えていた人物だった。
「…やっぱりコムイさん」
「やっぱりって何?」
「いえ、別に」
どうぞと家の中へと招いた。
コムイさんを見るとたくさんの荷物を持っている。どうやら出張から帰ってきてそのままうちに来たようだ。
「お邪魔します」
被っていた帽子を脱いで玄関に上がる。私は事前にリナリーに聞いてはいたのでそのまま仏間へと通す。
ろうそくに火を灯し、私は一旦台所へ戻り、再度お湯を沸かしてお茶と茶菓子を用意する。
「急な事だったね」
お父さんにお線香をあげて手を合わせた後、仏間の机にお茶とお茶菓子を出す私に労るように声をかけた。
「出張先でリナリーから電話で聞いた時は驚いたよ」
ずずっとお茶を啜る。
「ごめんね、お葬式に出れなくて」
申し訳なさそうに私を見るコムイさんに、私は首を振った。
「いえ、リナリーも来てくれましたし、親戚も来てくれましたから。だから、大丈夫です。」
大丈夫です。最近よく使う言葉だなぁとふと思う。
「…でもお忙しいのにわざわざ父の為に、ありがとうございます」
正座したまま深く頭を下げると、今度はコムイさんが首を振った。
「いや、ボクが勝手に来ただけだから、頭を上げてよえみるちゃん!」
頭をポンと叩かれる。
その暖かい仕草にまた緩みそうな涙腺を、ぐっと閉めた。
また結局昨日も泣けなかった私の涙腺は、今だに緩い。
「今日はね、えみるちゃん、もちろんキミのお父さんにお線香を上げに来たのもあるけど、他に話があって来たんだ」
いつもと違う真面目な表情で私を見つめる。
「えみるちゃん、うちに来ないかい?」