カレーの神様
□カレーの神様 6皿目
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天国のお父さん、そちらはどうですか?ゆっくり休めてますか?働いてばかりでお休みもろくになかったけれど、いつも優しく笑っていてくれました。構ってやれなくてすまないと、いつも申し訳なさそうに言っていました。私の事を大事に思って、守ってくれていました。それなのに、お父さんが死んでから、こちらは大変な事になりました。
料理をしました。
スーパーで買う物。ししとう、かぼちゃ、天ぷら粉、それと、蕎麦粉?
「…神田先輩」
「何だ」
「蕎麦粉って普通にスーパーで売ってるんですか?」
公園を通り抜けながら、隣で相変わらず不機嫌そうに歩く先輩に聞いた。
「…知らん」
返ってきた答えにやはり溜息が出る。
ほんっとにマイペースな人だな。蕎麦打てる位なのに何で知らない?
「売ってなかったら出来てるヤツを買いますからね。」
「…それは困る」
いや、困っているのは私です、神田先輩。
コムイさんが帰った後、その去り際の言葉に納得いかなかった私は、先輩を問いつめた。以下回想。
『ちょっと先輩!コムイさんに一体何を言ったんですか!?』
『…俺とお前が恋人同士で、一緒に住んでるって言った』
『はぁ?』
『男女が一緒に住むなら、その方が自然だろうが』
『私達はそんな関係じゃないです!』
『そうでも言わねぇとコムイは納得しねぇだろ』
『私だって納得しません!』
『何の関係もない男女が一緒に住む事の方が不自然だろうが』
『…私にとって先輩のその考えの方が不自然です』
『いちいちうるせぇな、面倒くせぇ。もういいだろうが。コムイだってそれで納得したんだから。お前だってこれでこの家に住めんだろ?』
『……』
以上回想終わり。
何だろうか。何だか上手い具合に話しが進んでいる気がする。しかも神田先輩の方にだけ。
「ほら、着いたぞ。」
気がつけばスーパーだ。
先輩は買い物カゴを持ち、先に店内に入って行ってしまった。
結局この流れでいうと、なし崩し的に一緒に住む事になりそうな雰囲気に、私はぶんぶんと首を振る。
いかん、非常にいかん。
確かにさっきは助かった事実は認める。家を離れずに済んだ。それについてはありがとう、神田先輩、と、言える。だがしかし。
「…あんまり振ってると、首とれるぞ?」
「取れません!」
いつの間にかまた目の前にいる先輩が私の行動に眉間に皺を寄せている。睨むと、
「何がそんなに気に入らないんだ、お前は」
腕を組んで上から目線だ。
…何かもう、色々面倒くさい。
「…いえもう、どうでもいいです」
脱力した。
堂々巡りのこの流れ、正直、疲れた。
そんな私の様子を見た先輩は、何故かふっと笑ってまた私の頭を撫でる。
「いい加減、諦めろ」
その言葉に思わず顔を上げて先輩を見ると、もう背を向けてスタスタと歩いて行ってしまった。
…諦めろって、神田先輩と住むのを拒否するのを?先輩は気付いていたの?私が困っていた事を。
うわ、何かムカつくんですけど。
無性に腹が立ってきた。それがわかってて先輩は強引に家にいるのか。
「…信じらんない」
ぼそりとその背中に呟くと、くるりと顔だけ振り返る。
地獄耳め。
「ま、しばらく厄介になる」
…ニヤリと口端を上げるその顔を、ぶん殴りたくなった。
「何だと?」
「だからわかんないんですってば!」
台所で2人、喧嘩越しの会話。
鍋にはお湯が煮立っている。
やはりスーパーには蕎麦粉はなく、それだけで気分を害した先輩を、面倒ながらも何とか宥めすかし、『手打ち』と書かれた一番高い蕎麦を買った。
家で蕎麦を打つ人がどれだけ少ないか(むしろほとんどいないだろう)わかった瞬間である。
そして今私達がやっている事は、喧嘩、ではなく、
「麺つゆも作った事ないなんて、お前は本当に女なのか?」
「だーかーらー、今は薄めるだけの麺つゆがあるから平気なんです!」
…料理をしていた、多分。
「しかも天ぷらすら揚げた事がないとは」
大げさに溜息までつかれた。