カレーの神様
□カレーの神様 9皿目
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天国のお父さん、お元気ですか?私は色々ありましたが何とかやっています。学校も今まで通り上位をキープして、今までは少しでもお父さんが楽になるように勉強していましたが、今はお父さんが天国で心配しないように勉強しています。そうして頑張って、慎ましく暮らしていこうと、暮らしていきたいと思っていた筈なのに。それなのに。
この状況は、あんまりです。
さらわれてしまいました。
「だから出てけって言ってんの」
「…無理」
「同じ家に住むなんていやらしいにも程がある」
「いやらしい?」
「だいたいアンタ何様のつもり?」
勝手に一緒に住むなんて!
ああ目の前の長い髪を思いっきり引っ張りたい。ほんっとにムカつく。何で私がこんな思いしなくちゃいけないの?
「……」
「黙ってないで何か言ったら?」
もう無理。もう限界。
これ以上、付き合っていらんない。
そう思いこの場を去ろうと踵を返すと、腕を掴まれた。
いててて、この馬鹿力め。
「逃げようったって、そうはいかないわよ!」
般若のような形相で睨まれた。
せっかくの美人が台無しですよ?
私はこの状況に溜息をつく。女の嫉妬って本当に怖い。
神田先輩と(なし崩し的に)一緒に住むようになってから早10日。何故かリナリーはその事を知らない様子なのに、いきなり学校帰りアレンと校門まで来た時(ちなみにリナリーは委員会)、大学部のお姉様に拉致られてそれを追求されているこの状況。
…それもこれも、全部先輩のせいだ。帰ったら殴ってやる(絶対無理だけど)。ああでも今日の晩ご飯は先輩の当番だ。メニューは何だろう。この前作ってくれた肉じゃが食べたいなぁ。あれスッゴい美味しかった。肉じゃが肉じゃが…
「ちょっと、聞いてんの!?」
「あっ、肉じゃ…いやいや、聞いてましたよ!」
ってヤバい!ますます目がつり上がってる。しかし、神田先輩の睨みに慣れてしまった私には案外平気だ。
「ええと、つまりアナタは神田先輩と付き合ってて、最近寮に帰って来ない先輩を探していた所、私と一緒に住んでいる事を知って怒ってると、こうゆう訳ですね」
ほら、ちゃんと聞いてましたよ、と言わんばかりに怒れる彼女を見る。
でも出ていけと言われてもなぁ。元々私んちだし。
「…わかってるなら別れなさいよ」
腕を組み、イライラした様子だ。
別れるも何も、付き合ってもいませんけど。でも聞いてくれるかなぁ、この人。
さすが神田先輩の彼女。人の話を聞かなそうな雰囲気満載だ。ていうか彼女にキチンと事情を教えといてよ先輩。
…それにしても神田先輩、彼女いたんだ。
何だか落ち込む自分がいて、ちょっとビックリ。
最近先輩に慣れてきたせいか、家族感覚というか、意外と世話焼きな所がお兄さんというよりお母さん?な感じ?
そこまで考えて割烹着を着てはたきを持ったおかん状態の先輩を思わず想像し、ぷっと吹き出す。
「何笑ってんのよ!」
あ、やべ。
ドンっと押されて、地面に尻餅をついた。
「だいたい私が先に付き合ってたのに、なんで…」
音楽が聞こえる。
あ、これ私の携帯の着うただ。無意識に制服のスカートから携帯を取り出して通話ボタンをポチッ。
『えみる!』
アレンだった。
『今どこにいるんです!』
「えっと…」
目の前の先輩の彼女さんは私の行動にやや呆然としていた。
「すいません、ここどこでしょうか」
「えっ、大学の裏庭だけど…」
「大学の裏庭だそうです」
電話の向こうのアレンにそう伝えると、そこで何だか怒鳴り合う声が聞こえてきた。
何?よく聞こえない。
携帯を耳に当てて眉間に皺を寄せると、目の前の彼女さんが怒りに震えている事に気がつく。
「…ふざけんじゃないわよ」
今度は本格的にヤバそうだった。