カレーの神様

□カレーの神様 10皿目
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天国のお父さん、昨日は散々な目に遭ってしまいました。心配ばかりかけてごめんなさい。でも先輩がいてくれて、私は寂しくなくなりました。それには感謝しています。でも、結局また散々な目に遭ってしまいそうな予感がします。先輩と住むなんて、私は早まってしまったのでしょうか。お父さん、教えて下さい。そして見守って下さい。





恐ろしい事になりました。






「せんぱーい!朝ご飯出来ましたよ〜。」

客間の襖を叩く。
返事がない。昨日は遅くまでレポート書いてたらしいからね。まあいっか。先に食べてよう。
台所で味噌汁をよそう。

昨日はあの後スーパーで買い物をし、夜は肉じゃがを作ってくれた。やっぱりとても美味しくて、そしてとても嬉しかった。
買い物中も繋がれたまま離されない手のひらが、まるで本物の家族みたいな気がして嬉しかったのだ。
先輩って、お母さんみたい。
本物のお母さんの記憶はあまりないけれど、お母さんのイメージってあるよね。料理上手で優しくて、それで厳しくて怒ると怖い。
最も先輩の場合はいつも怒っている感じだけど。
ぷっと吹き出してご飯を盛っていると、後ろで気配がした。

「…朝っぱらから気味悪ぃ」

寝起き不機嫌全開の神田先輩だ。

「あれ、よく起きれましたね?」

朝ご飯食べます?と視線を向けると食うとまた視線で返される。
今朝のメニューは白米にお味噌汁、漬け物と焼鮭と肉じゃが。
ちなみに私は鮭以外焼いてはおらず、後は全て昨日の残り。

「肉じゃがは2日目がうまいな」

「先輩それカレーの時も言ってましたよね」

手を合わせていただきます。うん、確かに味が染みて美味しい。

「先輩レポート終わったんですか?」

「……」

無言で食べ続ける先輩。ああ終わってないな、とわかる。

「…今日は一限から講義があるから早く寝た」

多分途中で嫌になったんだろうなぁ、と思える言い訳。
大丈夫なんだろうか、この人の単位。

「だから今日は一緒に出る」

「はぁ、わかりました…って一緒に!?」

「何だよ」

昨日の今日で一緒に登校って何かこう…

「まずくないですか?」

「だから何がだよ」

余計な噂を立てたくないんです。しかも昨日は……2人で手を繋いで電車に乗り、あまつさえ泣きそうになった私をあなた、抱きしめたじゃないですか!

「…いやまずいです」

今だ根強くいる神田先輩ファンにどんな嫌がらせをされる事か
いくら怒ってたからって、嫌な事を言われて落ち込んでいたからって、あれじゃまるで、まるで…

「ただのバカップルじゃん!」

ぎゅっと箸を握りしめると、先輩が微妙な表情で私を見ていた。

「…まずいのはお前の頭じゃないのか?」

そう言いながらもお茶碗を差し出す。ああ、おかわりね。

「…一緒に行かないとダメですか?」

そそっとご飯を盛って先輩に渡す。上目遣いでちらりと見ると、ああやっぱり眉間に皺が寄った。

「同じ方向だろ」

「ええ、まあ」

「ならいいじゃねぇか」

そうですね、そうなんですけどね。
昨日みたいな事がそうそう起きるとも思わないけど、やっぱりできたら穏やかな高校生活を送りたいかな〜と。
私は神田先輩ファンと神田先輩本人、どっちが恐ろしいか真剣に考えてしまった。



朝の電車はうちの学校の生徒でいっぱいだ。

「混んでるな」

かなり不機嫌な先輩が私の前に立っている。
結局、「もう飯作ってやらねぇぞ」のお母さんのような脅し文句に負け、一緒に学校に向かっている。
それにしても何故そこまで(脅してまで)して私と一緒に登校したいのか。一本電車ずらせばいいと思うんですが。
まさか先輩、私と一緒に通学したいとか。いやん、乙女だね。
そう考えて向き合っている先輩を見上げた時、駅に到着したらしく急に体に重力がかかる。よろけた私は先輩の胸へ倒れ込むというお約束。うわ、周りの女の子の視線が痛い。

「…掴まってろ」

腕を差し出す。何て男前。かっこいいです、神田先輩。でもご遠慮させていただきます。
ふるふると首を横に振る。そして更に寄る先輩の眉間の皺。
無言で勝手に私の腰に手を添える。
やっぱりバカップル状態に痛すぎる視線が刺さる。だけどこの手を振り払っても後が怖い。
…もう早く駅に着いて欲しい。
電車に揺られる事3駅目、いつもより長く感じる電車が到着。やっと下車する駅に着く。
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