カレーの神様
□カレーの神様 18皿目
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お父さん、私は意気地なしです。友達がせっかく背中を押してくれたのに、その場から逃げ出してしまいました。だけどもうわかっています。恋は誰かに教わるものではない、という事を。だからお父さん、あとは私に勇気を下さい。
逃げてしまいました。
へぇ、男ばかりの寮なんて、もっと汚いのかと思ってた。
「…意外です」
「…オレにはこの展開の方が意外さ」
ふてくされたような微妙な笑みを浮かべるラビ先輩。
適当に座ると麦茶を出してきてくれた。あら、お構いなく。
「だいたい何でオレん所なんさ」
自分の分の麦茶を手にラビ先輩はベッドに腰掛ける。
「だってうちには神田先輩がいるし、リナリーんちだって神田先輩にバレちゃうじゃないですか」
「バレるもバレないも、マズくね?オレん所にいるの」
オレ、ユウに殺されるかも。
大袈裟な溜息。ご愁傷様です。
「それにしても意外と綺麗にしているのでびっくりしました」
貰った麦茶を一口。
男の人の部屋なんて物珍しくてあちこち見渡す。あ、えっちな本発見。
「部屋が汚い男はモテないさ〜」
そう言いながらさり気なくその本を端に押しやる。
「で、ユウに会いたくない理由は?」
ベッドに腰掛けたまま私を見る。
「…聞きたいんですか?」
ラビ先輩に胡乱な視線を送ると、ニヤニヤしていた。
「そりゃ早速電話があったかと思えば、男子寮にこっそり入るルートを教えろだの、今日は泊めろだの言われちゃあね。理由位教えて貰わないと」
そう、今日の昼休み、ラビ先輩は別れ際に携帯番号とメアドを私に教えてくれた。
もちろん私はすぐに利用させて頂きました。それ位の迷惑を昨夜は被りましたからね!
「で、何があったんさ?」
もしかして、昼間のオレの話のせいとか?
「……」
当たらずも遠からず。なかなか鋭いね、ラビ先輩。
それでもなおも黙っている私に痺れを切らしたのか、目の前に移動してきた。
「な、えみるちゃん」
素直にお兄さんに話してごらん。
そう胡散臭い笑顔で言われる。
やっぱり言わなきゃ悪いかなぁ。確かに急に押し掛けたりして迷惑だろうし。
溜息をついて私は仕方なく口を開く。
「…神田先輩に告白しました」
「は?何を今更。付き合ってんでしょ、ユウと。一緒に住んでる訳だし?」
私の言葉に驚いたラビ先輩が私を指差す。
「…付き合ってません」
その反応がちょっとムカついたのでその指を逆向きに折ってやると、ぎゃっと痛そうな声がした。人を指差したらけませんよ?
「一緒に住んでるだけです」
むすっとして答えると、ラビ先輩は折られた指をふうふう吹きながら聞いてきた。
「それじゃ同棲でなくて、同居って事?」
「そうです」
「ユウにあんなに大事にされてるっぽいのに?」
「…そうです」
「セックスはしてないと?」
「…そ…」
うです、とは言えず黙り込む。
そんな私を驚いたように眺めて、マジかよ、と呟いた。
「それって…うわ〜、ごめん!」
いきなり謝られた。
「オレてっきりユウと付き合ってるもんだとばっかり思ってたさ!」
だから試す為に昨夜みたいな事したんだ、ホンットごめん!
目の前で手を合わせられた。
いやそれに関してはもういいんですけどね。
「でもそれなら何で一緒に住んでる訳?」
確かに。でも説明するの面倒。
「そこら辺はまあ、察して下さい」
適当に言葉を濁すとラビ先輩は、はは〜んとムカつく顔をする。
「どうせユウの事だから、寮出て行く所がない時にえみるちゃんに会って、そんで強引に押し掛たって感じ?」
「!」
頭の回転早いな。さすが元生徒会長。さすが神田先輩の友達(自称)。
「まあ長年ユウの友達やってっからね」
立ち上がって冷蔵庫を開けて麦茶を持って来てくれた。あ、ども。