月のかげする水

□月のかげする水 第6壊
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「ユウちゃん見た?」

「……」

「見たんだ。このスケベ」

「…誰がテメェみたいなチ…いや」

「今チビって言いかけたっしょ」

「…言ってねぇ」

「でも見たよね?」

あの林からユウちゃんにおぶって貰って帰って来て、今は宿。
私のあの昇華の技は私を一瞬全て蒸発させて、体ごと移動させる事が出来る。ただこの技には難点があって、ある程度の水分量を必要とするのでかなり消耗が激しい上、私本体しか動かせない。つまりは、

「見てねぇよ!テメェの裸なんて!」

全裸になってしまうのだ。

「ちゃんと俺の団服かけてやってただろ!?」

「ええ〜?」

ベッドに寝転びながら、傍らの椅子に腰掛けるユウちゃんを、じとっと見つめていたらぽかりと叩かれた。相変わらずひでーな。でも、

「ま、いっか」

「だったら聞くな!」

そのツッコミの早さにナイス、と親指を立てるも鼻であしらわれた。ちっ。

「だいたいあの技は何だ!あんな状態になる技をいつも使ってんのかよ!」

イライラしたように怒られる。

「ええ〜、滅多に使わないよぅ。あの技使うと結構死にそうになるし」

「だったらもう使うな!」

「いやぁ、あの炎の中じゃ、他に脱出方法考えつかなくてさぁ。一か八かってヤツ?」

実際死にかけたぜ、えへ。

「えへじゃねぇ!」

ぽかり

また叩かれた。

「暴力はんたーい!」

「テメェが俺を怒らせるんだろうが!」

更にイライラと眉間の皺が深くなる。でも私はそんなユウちゃんにまた会えて、怒られてるのに何だか嬉しい。

「えへへ」

「…何だよ」

「ユウちゃん大好き」

「……チッ」

おおい、そこで何故舌打ち?

そう思って見ていたら、ユウちゃんは顔を背けて立ち上がった。

「どこ行くの?」

離れる背中に寂しくなって声をかけると、「水、持ってくる」と言って部屋を出て行ってしまった。

水?

私の寝ているベッドの横にはもう既に大量の水。お風呂の一回や二回、沸かせそうなその量。
いくらたくさん水分を消費したからといって、いくら何でもこんなには飲めない。もう充分過ぎる程だ。

ううむ、ユウちゃんもそれ位わかってると思うんだけど?

首を傾げると少し、くらりときた。

うお、さすがにまだちょっとヤバいか。

横にある水のボトルを持ち上げて、ごくごくと飲み干して、またごろんと横になった。
途端に沈み込むような睡魔が襲う。

まだ、寝たくないなぁ。

さっきの水が蒸発していく音が、耳について離れない。目を閉じると更にそれが一層強くなる。
ただ疲労した身体が睡眠を求めていて、そのまま重くなっていく瞳を閉じた。




年を重ねる毎に、少しずつ減り続けていく水分。それは20才を過ぎた頃から更に加速する。
適合者としてエクソシストになって、AKUMAと闘うようになって、たくさんの力を使って、一度の闘いで私の身体中の水分が全て入れ替わる程の力を使い続けてる。そりゃ疲れるよ。辛いよ。エクソシスト辞めたいよ。
…でもユウちゃんがいる。ユウちゃんはすごい。ユウちゃんは強い。見てると頑張ろうって気になる。それなのに優しいんだぜ?惚れないのは嘘ってもんよ。初めてユウちゃんに会った時に、その視線の強さに一目惚れした。少しずつ減る体内の水分に怯える私を、その瞳が救ってくれた。睨まれたってそれすらも嬉しかった。そして一緒にいる内にその優しさに気付いて益々好きになって、今じゃもう全てが大好き。そしたらどんどん欲張りになってきて、今度はもっと一緒に居たくて会いたくて、いつもユウちゃんの部屋で待つようになった。
…私はいつまで生きられるんだろうか。ユウちゃんともっと一緒にいたいのに、以前よりももっと水分補給する量がふえているのがわかる。
いつか時間がくるのもわかってる。ならその時間が惜しい。
ユウちゃん、ユウちゃん、ユウちゃん、
大好き。
私を好きになって。
私を大人にして。
大人になれないかもしれない、私を大人にして。

頬に暖かい水を感じる。それは私から出る水分だ。
夢現の中、誰かが私のその頬を撫でる。
「泣くな」と声が聞こえる。

うん、そうだね。泣いたら水分勿体ないもんね。それなら笑ってた方がずっといい。どうせ短い命なら、そっちの方がずっといい。うふふ、大好きだよ、ユウちゃん。

夢の中でにっこり笑うと、ユウちゃんが頭を撫でてくれたような気がした。




「ああそんな、ひどいわ、マイケル!」

「…おい、一体マイケルに何されてんだよ」

ぱこん

頭を叩かれた。
目を開けば見上げた所に神田ユウ。
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