月のかげする水

□月のかげする水 第11壊
1ページ/2ページ

「はろぅ、コムぴょん」

「……悪い、コムイ」

「うわっ、ラビどうしたの!?」

かなちゃんキミも何してるの!?

室長室にドサリと倒れる私に捕縛されたままのラビに、コムイの眉間に皺が寄る。
机の上の書類をよいしょとどかし、代わりに私がその上に。

「え?かなちゃん?」

戸惑いを含むその声を鼻であしらって、胸倉を掴む。

「お話はこのラビくんから聞きましたわ。コムイさん、どういう事か聞かせて頂けますかしら?」

「…かな、キャラが違うさ」

捕縛されたままムクリと起き上がったラビっちが小声でつっこむ。
コムイはいつもと様子の違う私に目を白黒させている。

「えっ、えっ、ちょっとラビ、一体かなちゃんは何を…ってかなちゃん!?」

私の体の一点を凝視して目を見開く。

「その首!」

キスマークじゃないか!

「うっさいよコムイ」

睨みつけると急に冷静さを取り戻したのか、コホンと一つ咳払いして、浮かしかけた腰を下ろす。

「…そっか、それじゃあの後…」

ゆうべ室長室であった事を思い出したのか、コムイは一人、納得したように頷く。

「…体は大丈夫だったかい?かなちゃん」

あれほど神田くんには言っておいたのに。

ふっと溜息をついて労るように私の頭を撫でる。

「…それって何?」

ぺしっとその手を叩いてまた睨みつけると、戸惑ったように瞳が揺れた。

「え、それってどれ?」

「ユウちゃんに言った事だよ」

私との性的接触を止めたんでしょ?

「何でそれを知って…」

「悪ぃな、コムイ。つい口が滑ったさ〜」

逃げるのは諦めたのか、ラビっちは立ち上がりソファーへと腰かけた。
それをちらりと横目で確認して捕縛を解くと、ばしゃん、と水がソファーと床の書類に広がる。

「ああ〜!こんな所で解除しないでよ〜」

コムイの情けない声が聞こえるが無視だ。

「どうしてユウちゃんにそんな事言った?」

知ってたでしょ?コムイだって私の気持ち!

「……」

掴んだ胸倉を引き寄せる。
苦しげに歪んだ顔。だけどコムイは沈黙を通す。

「…わかった」

パッと掴んでいた手を離す。
乗っていた机から降り、イノセンスを発動させる。

「かな!止めるさ!」

「……」

ラビは叫んで止めようとするが、コムイは黙したままだ。

「水龍」

「ダメだかな!そんな大技!」

私の体内から水分が空気中へと昇り、龍の形となって私の周りを舞う。
その技にラビが目を剥く。
確かにこの技は大量の水分を使用するので、そう長くは保たす事は出来ない。もちろんそれがわかった上で出しているのだ。

「コムイ、私の体が心配?」

そのラビの声を無視してコムイに問いかけると、彼は無言で頷く。

「なら教えて。
なぜ私と『付き合え』なんてユウちゃんに言った?
それなのに私が望んでいた事をなぜ止める?
時間がないかもしれない。だから女として生きたいと、人を、ユウちゃんを愛したいと、私、そう言ったよね?」

龍が私の周りを舞う。
体から流出し続ける水分に、息苦しくなって動悸が早くなるが、水分補給したくても、いつもなら任務中には持っている水のボトルを、今は持ってはいなかった。

「…コムイ」

ラビがそんな私を見て視線をコムイに向ける。

「コムイがかなを守りたいのはわかる。オレだってもちろんそうさ。だけど頼む、かなの女の子としての気持ちを考えてやってくれ」

ラビの言葉にコムイの体がピクリと動く。
だんだんと息切れがしてきた。本当はこの龍の中に入れば、水分の流出を抑える事が出来る。だが私はあえてそれをしなかった。それをすると何となくコムイにも、そして自分にも、負けてしまうような気がしたからだ。そして私は益々水の出力を上げ、龍を大きくする。

「ねぇコムイ?」

ふっと息をつき話しかける。
コムイの珍しい真剣な瞳と視線が合い、私は思わず苦笑を漏らす。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ