月のかげする水
□月のかげする水 第12壊
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病室で寝てたら叩かれた。
「痛いっス!」
「当たり前だ!痛いように叩いてんだからな!」
「ひどい!」
「うるせ!このあほ!」
ベッドの上で訴える私を、腕を組んで見下ろしながらギロリと睨みつける。
「…約束破っただろ」
その言葉にんん?と首を傾げると、またポカリと叩かれる。
「ひでーやユウちゃん!」
「無茶はしないって約束しただろうが!」
本当に最悪だな!テメェは!
医療室にビリビリ響くような怒鳴り声に婦長が飛んでくる。
「あなた達静かにしなさい!ここをどこだと思っているんです!?」
「「……」」
恐ろしいその声に思わず黙り込む私達を見て、婦長は「よろしい」と頷いて病室から出て行った。
「…ユウちゃんのせいで怒られちゃったよぅ」
私が室長室で倒れてから三日後、任務から帰ってきたユウちゃんが怒りながら私の病室に現れ、いきなり叩かれたのだ。暴力はんたーい!だ。
むむぅと頬を膨らますと舌打ちが聞こえて、「悪いのはテメェだ」と言いながらふてくされる私の横に腰を下ろし、点滴の刺さった腕に視線を向ける。
「…室長室で無茶やったんだってな」
「あ〜、ラビっちからでも聞いた?」
不機嫌そうなその声にてへっと笑って返すと、また睨まれる。何かちょっと睨みすぎじゃね?ユウちゃん。眉間の皺、取れなくなるよ?
「…そういうお前はコムイに聞いたんだろ?」
…む、質問を質問で返すなよな。
だがユウちゃんの言葉に私は大人しく頷いてから、点滴の刺さった腕を上げて指先でその眉間に触れる。
「…あんまり皺寄せてたら取れなくなるっスよ?」
だけど何故かその皺は益々深くなるばかり。
「……テメェは」
ユウちゃんの腕が眉間を撫でる私の手首を掴む。は、とこぼれる溜息。
「本当にあほだ」
そう呟いてユウちゃんは絡めた私の指先にその唇を、落とした。
………何だ、今の。
触れた唇の感触にぴきっと固まる私を、どうした?と見つめる眉間は険しい。だけど視線は優しい。
ど、どうしたじゃないわ〜!!と卓袱台があればひっくり返していた所だ。…むむ、何だかすごく恥ずかしいぞ?どうしたはこっちのセリフだユウちゃん。
甘い仕草に私はカッと顔に血が上る。
「?、顔が赤いぞ」
熱もあんのか?
片手は握ったまま、開いた片手は私の額に伸ばされる。
あ、ひんやりして気持ちいいな、とは思うが、だがそれは逆効果。
益々赤くなっていく私を不思議そうにユウちゃんは眺めて、それからふっと笑った。
「…あんまり心配させんな」
「ユウちゃん…」
…何だろ、すげーユウちゃんが優しいんだが。本当にどうしたユウちゃん。ちょっと気持ち悪い。いやかっこいいけど。むしろ萌えるけど。
じーっとその顔を眺めていると、額の手が離れていく。
「…悪かったな」
そうしてぽつりと呟かれた謝罪の言葉。
「んん?何が?」
なぜ謝るのかがわからなくて聞くと、きゅっと握られる手のひら。
「勝手に俺とコムイが約束した事だ」
私から視線を逸らして、その握る手を見つめる。
「テメェの意志を無視した約束をして悪かったと思ってる。だが俺はコムイの気持ちがわかった。テメェを守りたいって気持ちが。だから約束したんだ。
……最ももう、それを守る気はないがな」
抑えた感じの声音が静かな病室に響く。それはまるでユウちゃんが自分の心を抑えているかのようにも聞こえた。
「…続き、する?」
小さく私も呟いて、私もその手を握り返す。ユウちゃんのひんやりしていた掌が、私の体温と合わさって、同じ温度になっていた。
けれどユウちゃんはそう聞いた私を見つめて、「続き、か」と呟き、今度はニヤリと口端を上げる。
「お前は俺との約束を破った。おまけに言っただろ?体調を万全にしておけと。だから」
今回はおあずけ、だ。
「…マジっスか?」
「当たり前だろ?」
ぴんっとデコピンされた。
「…それにここに来る前にコムイの所に行ってきた」
約束はもう守る気はねぇよ。だがお前の身体は守る。仕方ねぇから、
「我慢する」