月のかげする水

□月のかげする水 第15壊
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「おいっ、どうした!」

「んあ〜触らないでくれ〜」

部屋に来たユウちゃんが驚いたように、床に倒れている私を抱き起こそうとする。
途端に触れられた所から波紋のように広がる熱。

「…?、何だ?」

息の荒い私の様子にユウちゃんも何か気付いたらしい。その眉間にぐっと皺が寄り、訝しげに私を見詰める。

「コ、ムイがぁ〜」

あんにゃろ、水に何か入れやがった〜、と言うとますますその眉間に力が入った。
チッと舌打ちが聞こえてどうしたらいいもんかと考えあぐねているようだ。

「とりあえずベッドへ運ぶぞ」

「あっ、ん」

ぐいっと容赦ない力で抱き上げられて、思わず声が漏れる。
自分が発したはずのその声はあまりにもいやらしくて、顔が熱くなってもうどうしたらいいかわからない。
ユウちゃんが触れているだけで泣きそうな感覚が私を襲う。

「……止めるか?」

ドサリとベッドへ下ろし震える私を眺めながら、ユウちゃんはぽつりと呟く。

…止める?何を?

意識が朦朧としてくる。
離された熱が無償に恋しい。そして目の前で眉間に皺を寄せるユウちゃんが、恋しい。

「っ、おい!」

夢中で抱きついた。その腕。じんわりと伝わる熱と共に、何故かユウちゃんの身体の中の水分を感じた。

「や、だ…」

これ以上、待てない。

そう言ってそのまま首に手を回して唇を塞ぐ。驚いたような瞳が私を羞恥に包むが、そんなのはもう構っていられなくて、ユウちゃんが何か言いかけるように、唇を開いたのを合図に私は舌を差し込む。

「んっ、はぁ、あっ」

唾液が私に染み込む。その甘い水を舌先で絡める。やがてユウちゃんの腕が私に廻されて、強く抱き締められた。

「かな」

「んっ、んん」

「かな」

「は、」

「かな」

キスとキスの隙間で、ユウちゃんの熱い声が私の名を呼ぶ。とろんとしたその声音は、私を甘い水へと変える。濃度の濃いその水が、私の中に沈殿していくのに反比例して身体の中から水分が抜けていくような、そんな不思議な感覚がした。

「……俺だってもう、待てねぇんだよ」

もう一つの合図。その言葉が聞こえたかと思った時には、背中に廻された掌が服の中へ入ってきた。
撫で回される背中が熱くて、以前の狐火に包まれた時みたいにそこから水分が蒸発していくのを感じるのに、その掌からは水分が補給されていく。

……何、何が起こってる?

今にも水蒸気にでもなってしまいそうなのに、ユウちゃんから止めどなく水分が与えられているようだ。それは甘くて熱い。飲んだ事のないアルコールはこんな味なのだろうかと、頭の隅で私は考えていた。

「かな」

ちゅっと耳朶に滴るような唇を寄せられて、急に冷水をかけられたようにぶるりと身体を震わせれば、耳をなぞるように舌先が入ってくる。ぴちゃりぴちゃりと水音が頭の中に響き、おへその下がまた熱くなる。

「あっ、やっ、ユウちゃあん」

その感覚が切なくて、ユウちゃんの肩にすがりつく。離された耳に、は、と吐息がかかる。その吐息に含まれる水分すらも私の肌に吸い込まれ、また身体の中に沈殿されていく。
そしていつの間にかユウちゃんが手に持ったボトルから、水を口に含んで唇越しに渡してくる。それは格別な味がした。甘くてぷるんと弾力のある、柔らかなゼリーのよう。

…不思議。身体からどんどん水分が抜けてくのがわかるのに、なのにそれ以上に私に水分をユウちゃんは与えてくれてる。それが私を潤して、身体中から滴り落ちていきそう。

「…ユウちゃん」

小さく名前を呼ぶと、優しく細められる瞳。さっき渡された水に濡れた唇をぺろりと舌で舐めとる。

「大好き」

ふにゃんととけちゃいそうな身体に、私の表情もきっと比例している。
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