月のかげする水
□月のかげする水 第16壊
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ぴちょん、と水滴が水面に落ちる音。
月しか光のないその水面に、波紋が広がり私とユウちゃんにそれが届く。
くぁ、何だろ。恥ずかしいな、これ。
部屋に付いているお風呂に、今ユウちゃんと一緒に入っている。もちろん電気は消して。明るいのはちょっと勘弁だ。何と言っても身体に自信がないからな、うん。
そしてその膝の上に乗っている私の後ろからは、ユウちゃんの呼吸音が聞こえて、妙な緊張感が私を包んでいた。
いやもう、『続き』しちゃったし?今更恥ずかしがる事もないんだけどさ、何つーか、こう、ねぇ、逆にそれが恥ずかしいっつーか、うん、顔が見れないね。見たいけど。
ぐぐっと身体を固くする私の後ろから、くっとユウちゃんの笑い声。
「何固くなってんだ?」
そう言ってお腹に廻された腕に力が入り、思わずぐぇ、と色気のない声が出る。
「…お前の部屋、風呂ついてんだな」
ざばりと片手を離してお湯を掬い、私の湯船からはみ出た肩にかけてくれる。
「あ、うん。私のイノセンスがほら、あれだから」
「あれ?」
「えっと、水分補給しやすいように、いつでもお風呂にね、入ってそんで補充できるようにね、うん」
我ながら上手く説明ができず、しどろもどろに言うと、ユウちゃんはそれで納得したんだかどうだかわかんないが「そうか」と小さく呟く。
「だからか、コムイが言ってたのは」
そうしてまた聞こえる声。
「コムイ?」
「ああ。コムイのヤツがやるならお前の部屋でやれと言ってきやがったんだよ」
「は?」
思わず振り返ると目の前にはニヤリと笑うユウちゃんの顔。
「確かに便利だな」
「……」
その顔からまた、ささっと視線を外す。だってユウちゃんかっこいいんだもん。
そしてさっきまでの自分を思い出して、また身体を固くする。
まさかこの私が、ユウちゃんの顔をまともに見れない日がくるなんて、どうした私。ああでもあれだ、初っ端から誘うような事をしたのはあれた、コムイのせいだ。そうだコムイだ。あいつが悪い。余計なもんを水に入れやがってひでーヤツだ。ちくしょーどうしてくれるんだ。しかも風呂とか余計な情報言いやがって、後で室長室水浸しにしてやる。そうだ、そうしよう。いや寧ろ今だ、今行こう。それでちょっと頭を冷やそう、うん、そうしよう。
そう勇んでざばりと立ち上がると、ユウちゃんの手が私のお尻に触れた。ひぇー。
「…ちっせぇ尻」
「ひっ」
べろりと舐められびくりと身体が震えた。
「ユユユユウちゃん!?」
慌てる私の腰を押さえつけて、ユウちゃんは構わず私のお尻を舐めている。
止めてくれ〜!勘弁してくれ〜!と叫ぼうにも何故か声が出ず、代わりにぞくぞくと何かが背筋を走る。
「あ、」
やっと出たと思った声は吐息のような声で、かかかっと顔が熱くなる。
何だよ何でこんなになる?わかんないよ。おまけにユウちゃんがエロいよ、…そんで私もエロいよ。
頑張って首を捻って後ろを見ると、見上げるユウちゃんと目が合った。
…何だその目は。まるで獲物を捕らえた狼のようだな。まあ怖い、って獲物は私か!
「や、や、…いっ」
止めてくれ〜と身体を捩って言おうとしたら、噛まれた、お尻を。
「ふん、大人しくしてねぇからだ」
ムスッとした顔で睨まれる。いや無理だって、大人しくなんて。
「かな」
私の腰を掴んだまま、ユウちゃんもざばりと立ち上がる。そして腕を掴まれて向かい合わせにされた。
目が合わせられない私の顔を撫でる両手。それが両側からそのまま首筋を撫でて、肩を、腕をなぞり脇から腰、そしてお尻を辿る。
「…何ともないか?」
身体は、大丈夫か?
上から降る優しい言葉に思わず顔を上げると、そこには、心配そうに私を見つめる瞳があった。