月のかげする水
□月のかげする水 第19壊
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…どこだ?ここ。
目が覚めたらベッドの上に寝かされていた。ご丁寧にも右手に錠をかけられて、ベッドから動けないようにされている。
今、何時位なんだろ。
蝋燭の灯りだけで、窓一つないこの部屋には月明かりさえ入って来ない。寧ろ夜かどうかさえわからない。
どうやら生きてはいるらしいんだけど、これからどうすっかなぁ。
ん〜、と上体を起こして首を傾げていると、その暗闇から滲み出るように人影が現れた。
「よう、お嬢さん。目が覚めた?」
軽い調子のコイツだ。
「…ティキ・ミック」
その名を呼ぶとニヤリと笑う。
「ここはどこ?」
まさかそう簡単には答えてくれないだろうとは思ったが、意に反してあっさりと教えてくれた。
「ここはあの教会の地下。魔女狩りのあった時代の拷問部屋らしいよ」
ちょっと面白いよな。
そう言って薄暗い中指差した先には、鎖やら斧みたいなやつやら、大きなペンチや棘だらけの椅子。
うわ〜、悪趣味な部屋だなこりゃ。
「…そういう趣味、私ないんだけど」
溜息をついて言うと「うん、俺も」と返された。
「で、お互いそんな趣味ないなら、私がここにいる理由なくね?」
がしゃんと右手を引っ張り手錠を鳴らすと、ティキは手を伸ばして私の頬を撫でる。
「いや、お嬢さん、エクソシストだし?俺ノアだからさぁ、とりあえず、ね」
「……意味わかんね」
何がとりあえず、だ。
面倒くせぇ男だな、おい。
「殺したければ殺せば?」
さっきみたいに私の心臓掴んで。
見上げて睨み付けるとおお怖い、と肩を竦める。
「気の強いお嬢さんだ。
でも俺、あんまりそういうの好きじゃないんだよね〜。それより…」
また顔が近付く。
暗闇に赤い瞳が蝋燭の火を反射する。
「っ!」
ペロリと舐められる唇。そしてユウちゃんの付けた痕を吸われた。
「なっ」
「…確かにお嬢さんはちと発育不良だけど、」
「……余計なお世話だ」
「何か、そそられるね」
俺大人の女のが好きなんだけどな。
そう言って私の肩に触れてくるその手を、繋がれていない左手で払う。
「何だよ、ロリコンの上に熟女好きかよ。充分変な趣味持ってんじゃん」
睨み付けてふん、と鼻で笑うと楽しそうにこいつも笑う。
「ああわかった。その目だ。晴れた日の水たまりみたいに光を反射して、ゆらゆらしててさ、潤んでる感じ?それがすごくそそられる」
「変態の上に気障だな」
「ひでぇな、誉めてんだぜ?おまけに言っただろ?晴れた日の水たまり、」
いつか蒸発しそうで儚くて、いいね。
ギクリと身体が震えた。
こいつが私の体の事なんて知るわけないのに、不思議と的を得た言葉が急激に心を揺らした。
またすいっと白い手袋が目の前をよぎる。
腰に下げている水のボトルを取られた。「ちっ」とユウちゃんみたいに舌打ちする。
「これ、何?」
「…知らね」
「ま、いいけどね」
再び唇が私の唇に落ちる。
触るな、ユウちゃん以外の男は。
ムカつく。
私を愛して抱いてくれるのは、ユウちゃんだけでいい。ユウちゃんしかいらない。
すいっと視線を逸らす。ティキが不快そうな、それでいてどこか皮肉な顔をする。
凶暴な感情。ユウちゃん以外なら、私に触れないで。そんな感情。
ゆらっと空気中の水分を吸収し膜を張る。お前なんかに触られたくないと膜を張る。
「は、水ね、ますます面白いな」
ティキは笑う。
その膜を通り抜け、私の団服のショートパンツから指を差し込む。
「誰がお嬢さんのお相手か、そんなの知らねーけど」
快楽的に楽しもうよ。
楽しそうに浮かべる笑み。
「いやだね」
ふんっと視線を逸らせば、さらに楽しそうに笑い私の団服を脱がす。
「嫌がる女を開かせるのも男の醍醐味だ」
「はん、さすが変態」
「大人しくしててよ。痛くする趣味もないからね」
そう言って、直に肌に触れられて鳥肌が立つ。