月のかげする水
□月のかげする水 第20壊
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身体が動かない。
今何日かとか、ここはどこだとか、私は誰だとかって私は私の筈なんだが、それすらも曖昧の彼方に霞む。
昇華の技を使い、身体中の水分を一気に消費してしまった私には、もう逃げる力すらない。
……最悪だな。どうなるんだろう、私。
ゆっくりと視線を巡らす。
どうやら地下ではないらしいが、また暗い。ただ窓から差し込む明かりでわかる、どこかの貴族の部屋のような、豪勢な内装。天蓋付きのベッドに寝かされている私。
…あの男、何考えてんだ?変態やろーめ。
窓を見ると、外は月。
アレンに会った時は月は出ていなかった。真っ暗だった筈。という事は1日は経っているのか?アレン大丈夫かなぁ、あんにゃろの事だから、きっと責任感じて一生懸命に私の事探してんだろうな、想像つくぜ。しっかし身体が動かねぇ。ああもうどうすっかなぁ。
多少は残っていた身体に水分を集める水。そのおかげか、まだ全てが全て、蒸発はしていない。…でもそれも時間の問題。
は、と呼吸する度にもこぼれ落ちる水分。
もしティキに抱かれたとしたら、どうなるんだろうか。
この身体では抵抗はできない。昇華も使えない。水分を奪う力も今は、ない。
…ユウちゃん。私、どうしたらいい?
選択肢は2つ。
1つ目はユウちゃん以外に抱かれても生き延びる。
2つ目はユウちゃん以外に抱かれる位なら、死ぬ。
どっちにしても怒られるのは目に見えてるなぁ。でも怒られてもいいから、会いたいなぁ。
ユウちゃんが付けた痕に触れたくて、頑張って手を首筋へと伸ばす。そして感じる違和感。
「な、に…?」
着たままのアレンの団服。こんなに小さい筈がない。
「私、」
視界に入る手のひらが大きい。俯くと胸がその視界の邪魔をする。
「…成長、してる?」
「うん、大人の女、とまではいかないけど、なかなかの俺好み」
本当に楽しませてくれるよね、水たまりちゃんは。
声と共に現れたティキが私に覆い被さる。
「ごめんね、ほったらかしで。
俺も仕事でね。もうちょっとかかりそうだから、お楽しみはその後に」
そう言いながら団服の前をはだけて、胸元に口付ける。
「…や、めろ」
反射的に力無く抵抗するも、当然かなうはずもない。
そんな私の様子を楽しむように、指を首筋の痕から胸へとなぞり、頂を潰す。
「っ」
ぎりっと唇を噛む。
「…さてと、今から面倒くせぇがお仕事だ。寂しいだろうけど、ここで待っててね、」
水たまりちゃん。
またちゅっと今度は腰に口付ける。
「…二度と来るな」
「冷てーな」
白い手袋を嵌めた掌が腿を撫でる。
「俺来なかったら、水たまりちゃん、死んじゃうかもよ?」
いいの?
私の成長した胸を揉みながら、楽しそうに囁くその顔がムカつく。
「いい。決めた」
その言葉に「何を?」とティキは不思議そうな顔をした。
「生きる事を諦める事を諦めた。私が願うのはただ一人。ユウちゃん以外には抱かれない、死ぬのも嫌」
私は欲張りだから。
ニヤリと笑むとティキは虚を突かれたような顔をしたが、急に笑いだした。
「くっ、ははっ、いいね!水たまりちゃん!ますます気に入ったよ。
それにその目、今にも滴り落ちそうで、」
全てを奪いたくなる。
また唇が重なり舌が入り込む。絡む舌から水分となり、少しだけ私に染み込む。
この際、生きる為には仕方がない。本当は雨でも降ってくれればいいのだが、この月夜ではそれは無いだろう。
…こいつからの水分なんて、嫌だけど。
「つっ」
せめてもと、最後にそのムカつく唇に噛み付いてやった。