月のかげする水
□月のかげする水 第29壊
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室長室に呼ばれて行くと、次の任務資料を渡された。読んだ方がいいのだろうかと迷っていると、「読みなさい」と睨まれた。ちっ。
ええと何々?あ、ここは飛ばして、と。ここも読まなくていいかな、と。ほんで、…おお!これは!
「やった!ユウちゃんと一緒の任務だ!」
「ちょっとかなちゃん!きちんと読んだ!?」
ちゃんと任務内容を把握して貰わないと困るよ!本当にいつもキミはそうやって確認もしないから破壊が増えるんじゃないか!おかげでこっちは大変なんだから!とたらたら文句を言いながら怒るコムイ。いやぁ、怒るこの人を見てると、笑えてくるのは何故だろう、不思議。
「ま、気にすんなよ!
あんまり気にしてるとハゲるぞ?」
「ハゲたらかなちゃんのせいだからね!」
「いやそれは帽子被ってるコムイのせいじゃね?」
んん?と首を傾げると呆れたような溜息と共に「もういいよ」と言われた。あ、いいんだ。
「でも神田くんとの任務中は性交渉禁止だからね」
びしりと指差され念押し。
「…マジ?」
あらいやだ、と大袈裟に驚くと「当たり前でしょ」と睨まれた。てへ。
「わかってるって、いくら私だってそんな事したら任務に差し障りがある事位」
せっかく身体も元の大きさに戻ったのに、とへらっと笑うと「全く」とまた溜息をつかれた。
「でも久しぶりの一緒の任務だな。コムぴょんワザとしてなかったっしょ」
ちらりと書類に埋もれているコムイに視線を向けると、ああそうだったね、と逸らされた。
「神田くんに頼まれていたからね」
「…どういう事?」
ぼそりと呟かれた言葉を私は聞き漏らさない。
「……キミ達が別れてた時、」
「別れてないっス」
「いやそれは置いといて、その間頼まれてたの!一緒の任務にしないでくれって」
神田くんが言い出したんだから、ボクのせいじゃないよ。
「ユウちゃんが?」
何故?と首を傾げていると、苦笑される。
「怖かったんだろうね、きっと。会うとまた、かなちゃんを壊しちゃう気がして」
男心ってヤツ?
ニヤリと笑って見つめる瞳は楽しそうだ。
男心?ユウちゃんの?
つまりは私が好きだから辛いって事か?うう、ユウちゃんてばどんだけ私ラブ?大好きだぜ!ちくしょー!
一人盛り上がる私にコムイは話しを続ける。
「ボクだって何とかしてあげたいとは思っていたんだ。だけど神田くんの気持ちもわかるからね。
…まあ結局仲直り出来て良かったよ」
ふと仲直りした日の事を思い出す。部屋の前にあった大量の水。
「ん、ありがとコムイ。
あの日ユウちゃんの部屋の前に水置いてくれたもんな」
知ってたんだろ?あの日私がしようとしてた事。
そうして見つめた瞳は優しげに細められる。
「…まあね。
リナリーから薬の事をさり気なく聞かれた時に何となくね。それで混ぜるなら食事にだろうと思ってジェリーにかまかけたら、案の定だったし。
だから事前に薬の分量をジェリーに教えておいたんだよ」
そのコムイの言葉に驚く。
そんな私をやはり楽しそうに眺めて笑っている。
「効かないと意味ないだろうし、効き過ぎても大変だし、ね」
「コムイ…」
勢い良く腰掛けるコムイに近付いて、ガバッと抱きつくと、椅子ごと後ろに倒れ込む。
「痛いよ!かなちゃん!」
「お前何ていいヤツなんだ!」
ぐりぐりと頬擦りすると、苦笑と共に撫でられる頭。
「ま、ボクはかなちゃんが幸せであればもういいよ」
じんわりと染み込むその言葉に、目の奥が熱くなる。
「…やっぱコムイ様って呼ぶよ」
「いやそれは止めて」
やんわりと離されて、また椅子を起こし腰掛ける。
「ただかなちゃん、」
そして今度は心配そうに私を見つめる。