world is yours

□world is yours 3
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死んだ飼い猫を火葬場に持って行き、その遺骨と共に帰ってくれば、玄関には艶々な黒い毛並みの猫がいた。
少しキツいが青い瞳がとても綺麗。まるで寂しがる私の元へと慰めに来てくれたような気がしていた。

「ああ、お前、雄(オス)なんだ」

抱き上げてみればちゃんとある『それ』に呟くと、いきなり暴れ出して手の甲を引っかかれた。

「ごめんごめん」

苦笑して思わず手を離してしまったその仔を、撫でようとまた手を伸ばすと、ふいっと背けられるその顔。
プライドの高そうなその様子にまた苦笑して私は立ち上がる。

「どこから来たのかわかんないけど、」

玄関の扉を開く。

「私が嫌ならごめんね、行ってくれてもいいよ」

寂しいけど、とその黒猫を見つめる。だが丸い瞳はそのまま私を見つめて動かない。
そうしてしばらく私達は見つめ合う。
それは何だか不思議な感覚だった。

…何だろう、この仔。

普通の猫と何か違う気がするが、どこがどう違うのかとも言い表す事も出来ない。

「…ならとりあえず、うちに居る?」

動こうとしないその仔に声をかけて扉を閉め、また玄関へと上がり抱き上げると、今度は大人しく私の腕に収まった。

「行くところがもしなければ、うちにいていいよ」

居間へと連れて行き下へと下ろすと、たっと走り出して窓枠へと飛び乗った。どうやら外を見ているらしい。
何だか猫らしいその様子に、さっきの感覚は気のせいか、と思い直して、遺骨の入った陶器を仏壇へと持って行った。
蝋燭に火を灯し、お線香を上げて手を合わせる。

ああ、本当に死んじゃったんだなあと考えてまた涙が落ちる。

もう撫でる事も、一緒に眠る事も、甘えてゴロゴロと喉を鳴らす声やお風呂に入れて泣き喚かれる事も、もうないんだな。
ずっと一緒にいた。
私が生まれて16年。物心ついたときには既に傍にいた。
友達と喧嘩して当たった事もある。志望高校に合格した時には嬉しくて、抱き上げてくるくる回った。悲しい気持ちな時には私の頬を慰めるように舐めてくれて、何より中学の時にあった辛い出来事を唯一言う事が出来た。

…寂しいなぁ。

ぽたりと伝う涙が苦しい。
もう誰も傍にいない。
ひとりだ、私は。

大好きだった彼とも別れた。
仲の良かった親友とももう一緒にいない。
この仔が死んで悲しみを分かち合う筈の両親は、今頃は時差の関係で夢の中だろう。

「…うっ…」

口から漏れる声は寂しい私の泣き声。
こうしてひとりで泣くのは初めてだ。だっていつもはこの仔がいてくれた。いつだって慰めてくれていた。

何だろう。どうしてこんなに私はひとりなんだろう。
世界は人で溢れているのに、今、ここにいる私はひとりだ。
猫になりたかった。それはとても魅力的なイメージ。
そうすれば孤独もなく自由な気がしていた。
寂しいという感情も辛いと思う苦しさも、全てが無くなるような気がしていた。

「…誰か…」

震える声で訴える。
誰か傍にいて、と。

「…寂しいよ…」

落ちる涙が幾筋も頬を辿る。
寂しさが私を苦しめる。

合わせた手のひらが力無く膝へと落ちた時、小さな感触も私の膝へと落ちる。
濡れた瞳を開けばそこには、黒く艶やかな毛並みの青い瞳。
その瞳がまるで私を射るように真っ直ぐに見つめている。

「…心配してくれてるの?」

呟いて小さな頭を撫でればふいと避けて、その撫でる指先を舐められた。
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