world is yours
□world is yours 7
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…俺は間違っていないだろうか。
「神田!」
いきなり方舟のゲートから現れた俺に、驚いたような声が聞こえた。
「…モヤシ、か」
戻ってきていきなり会うのがコイツかよ、と眉間に皺を寄せれば、つかつかとこっちへとやって来る。
「僕の名前はそんな名前じゃないですって、何度言えばわかるんですか!?
ああそれより!」
3日間も音信不通で、どこ行ってたんです!
「…3日間?」
俺が向こうにいたのは二週間は経っていた筈だ。
…時間の流れが違うのか?
考え込む俺をよそにモヤシは尚も言い募る。
「任務が終わって先に帰ってると思えば、まだ神田は戻っていないとコムイさんに言われるし、もう、どうしたのかと…ってその子は?」
また驚いたように目を見開き、俺の腕に抱えられた小さなこいつを見つける。
「…連れてきた」
ぼそりと呟き抱え直す。
意識がない。
確かに俺もあっちの世界に行った時はしばらく気を失っていた。
「連れてきたって…そんな、一体どこから…神田!」
うるさいモヤシを無視して俺は歩き出す。
「話は途中ですよ!」
どこへ行くんですか!?
咎める声に振り返れば、イラついたような顔。
「…コムイの所だ。
それにこいつは『その子』じゃない。…『アヤ』だ」
それだけ言ってまた俺は歩き出し、ゲートのある部屋を後にする。
コムイの所に行って俺が行っていた世界の事を聞きたかった。なぜこんな事が起こったのかも。
…それと、こいつの事もな。
その頬を寄せるようにまた抱え直して、俺は室長室へと向かった。
「…パラレルワールド、だね」
「…んだそれ」
聞き慣れない言葉に眉を顰める俺に、コムイは苦笑する。
「この世界の他に世界が平行して存在している、という事さ」
デスクに肘をついて俺の横に寝かされた、『アヤ』に視線を送る。
「まあ方舟自体その空間の距離を縮めて移動している。神田くんが異世界に行ってしまったとしても、あまり不思議はないかもね」
そう言った後「でも」、と言いながら立ち上がり、俺達のいるソファーへと来た。
「この子、『アヤ』ちゃんと言ったっけ」
まだ意識の戻らないこいつの顔を覗き込んだ後、俺へと視線を移す。
「国籍は?」
「日本人だ」
「…年は?」
「知らねぇ。ああ、多分16、7って所か」
「……親は?」
「……」
…知らねぇ。知らねぇが、こいつの傍にはいない。
返事のない俺にコムイは呆れた顔をする。
「神田くん、」
最後にもう一つ、聞いていいかな。
俺は手を伸ばして、手の甲でそのふっくらとした白い頬を撫でる。すると、ぴくりと瞼が動きゆっくりと瞳が開いていく。
ぴく、と腕が反応して頭が持ち上がり、俺達を見つめる瞳は不思議そうだ。
「…目が覚めたか」
アヤ。
頬を撫でた手を頭に置く。
「…神田くん」
そんな俺を見てコムイは溜め息をついた。
「…『アヤ』ちゃんは、」
人間なの?
その答えとしてこいつからは、「にゃー」と言う声が返ってきた。