world is yours

□world is yours 8
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端から見れば変な光景だろう。
猫と会話する、俺。


テーブルの上に乗せたシチューを、こいつは舐めとるように食べている。

「美味いか?」

その小さな真っ白な身体を眺めて伺えば、こいつはこくりと頷いて、また食べ始める。

真っ白な毛並み。ほっそりとしてしなやかな身体。真っ直ぐな尻尾。そしてあの、少し茶色がかった、憂いたような瞳。
こいつがなぜ猫になったのか、その『理由』は何となくわかる。だが 『どうやって』猫になったのかはわからない。
向こうの世界では確かに人間だったのだ。

…でも俺も、向こうの世界で猫だったからな。最も姿形だけだったが。

「神田さん」

ぼうっと頬杖をついて眺めていると、かわいらしい声にはっとする。

「ああ、悪い。まだ食べるか?」

俺の言葉にアヤは首を振ってから、ストンと身軽にテーブルから降りた。

「コムイさんの所、行く、」

「…そうだな」

俺も立ち上がり前を歩き出すアヤの後を追う。

アヤがこっちの世界に来てから一週間。俺はとりあえずこいつに教団内の事と、言語である英語を教えた。
初めの頃はこいつもやっぱり言葉が上手く話せず、周りからはかなり痛い視線(特にあのクソモヤシに)を向けられていたが、最近はこうしてきちんと言葉を話せるようになったので、大分それも無くなった。ただやはり話しができる猫なんて気味が悪いのか、一部を除いて皆遠巻きに俺達を見ている。

「おっ、ユウとアヤじゃん」

アヤ、少しは英語、上達したさ?

食堂を出ると兎が俺達を見つけて手を上げた。そしてしゃがみ込んでアヤに向かって話しかけるコイツは、アヤを気味悪がらない(むしろ面白がっている)一部だ。

「…少し、だけ」

今まで前を歩いていたアヤが、この兎の登場にさっと俺の後ろへと隠れる。そうして顔だけちょっとだけ出している。

「そっか!」

笑いながらそう言って、兎はコイツの頭を撫でようと手を伸ばしたが、するりとその手から逃れるアヤ。

「…オレって、嫌われてる?」

そう言って立ち上がり、何だかがっくりとした様子。

「…さあな」

こいつはあまり男と、接触したくないだけ。兎が嫌いな訳じゃないだろう。

「アヤ」

振り返り俺の後ろに隠れる小さな身体を抱き上げる。
大人しく俺の腕に収まるアヤを見て、兎は何だか羨ましそうな顔をした。

「ユウには随分懐いてるよな」

その言葉に俺は口端を上げる。
そりゃそうだろう。

「…俺はこいつにとって『クロ』だからな」

「『クロ』?
っと、ユウ、どこ行くんさ?」

アヤを抱えたまま兎の横をすり抜けると不思議そうに聞いてきた。

「アヤ」

「あ、コムイさんに、呼ばれてる。」

名を呼んで俺の代わりに答えさせ、こうしてなるべく俺は言語に慣れさせるようにしている。うしろでは兎が「やっぱアヤ、かわいいさ!」となぜが身悶えていた。




「こんにちは、アヤちゃん。
ここにはもう、慣れたかい?」

「こんにちは、コムイさん。
はい、…慣れました」

なるべくゆっくりと話しているコムイと、アヤのそれに対しての返答に、俺は苦笑を漏らす。本当はあまり「慣れ」てはいない筈なのだが、まだボキャブラリーの少ないこいつは、微妙なニュアンス等を伝えることが出来ない。
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