world is yours
□world is yours 9
1ページ/2ページ
適合者だと知ってて連れてきた訳じゃない。
ただあいつの世界が、いらないと、壊れてしまえばいいと願った、あいつの世界を、違うものに変えてやりたかっただけだ。
…だが、俺があいつを、アヤを、一緒に連れて行きたいと思ったのも事実だ。
深く室長室のソファーに腰掛け、俺は深く溜め息をつく。
今はアヤはコムイとヘブラスカの所へと行っている。
俺はやはり、間違っていたのだろうか。
あいつは向こうの世界で辛い過去と闘っていた。
誰にも言えないアヤの傷。
俺が癒せれば。
俺が助けられれば。
そう思って連れてきた。
なのに、
「また、闘わせるのか…」
『ありがとう』なんて言われる筋合いなんてない。
ただ俺が、一緒にいたかっただけなんだ。
『新しい世界』を与えてなんてない。
お前の役割を、こっちの世界で与えるつもりなんてなかったんだ。
『今度こそ、明確な目的で闘う』必要なんてない。
…『今度こそ』お前の代わりに、俺が…
「……チッ」
思わず舌打ちした。
誰もいない室長室にその音だけが響く。
…何だよ、何でこんな気持ちになる?
わかんねぇよ、会ってまだ1ヶ月も経ってねぇじゃねぇか。なのに、何で、…こんなに…
バンッ
「ただいま兄さん!」
っと、あら、神田?
任務から戻ってきたリナリーが、一人で室長室にいる俺を見て驚いたような顔をした。
「そういえば、3日間行方不明になってたって聞いたけど、何してたのよ?」
両手を腰に当てて、俺を睨む。
「…テメェには関係ねぇ」
顔を背けると「何よ!そのいい方!」と怒鳴られた。正直うるさい。
溜め息をつくとストンと俺の横へ腰をかける。
「何か兄さんが言うには『猫』を連れて戻って来たって言ってたわ。で、」
その『猫』ちゃんは?
横に座る俺の顔を覗き込む。俺はまた舌打ちをして口を開いた。
「…『猫』じゃねぇ、人間だ。」
「え?でも兄さんは『猫』って…」
「あいつは!『アヤ』は猫じゃねぇ!」
猫、猫とうるさいリナリーに腹が立って思わず声を荒げると、びっくりしたような表情で俺を見た。
「どうしたの?神田。」
いきなり怒鳴る俺に不思議そうな顔をしたリナリーを見て、ふと我に返り黙り込む。
「なら、『猫』の姿をした人間って事?」
ちょっと詳しく教えなさいよ、神田。
首を傾げてながらも有無を言わせない口調で聞いてくるリナリーに、俺は結局閉じた口を開く羽目になった。
「…随分と、気に入っちゃったのね」
リナリーは苦笑しながら俺を見つめる。
「そんなんじゃ…」
ねぇ、とは言い切れない。
俺はもちろんアヤの過去の傷には触れずに、違う世界に行った事、そこで『アヤ』に会った事、そしてそのまま連れてきた事を簡単に説明した。誰かに聞いて欲しかったのかもしれないこの感情も一緒に。
「ねぇ神田。」
優しい声でリナリーは俺の名を呼ぶ。
「今までの話し聞いてて思ったんだけど、神田はその『アヤ』に、」
一目惚れ、したんじゃない?
「……」
固まった。
一目惚れ?俺が?アヤに?
「…違う」
否定する俺の声が掠れる。
そんな俺の声にリナリーはまた苦笑した。
「でも気になって仕方ないんでしょ?『アヤ』の事。
それって、好きって事じゃないの?」
好き…アヤの事を…俺が…
そこまで考えてかっと頭に血が上る。
「違う!俺は、俺はただ、あいつを一人にしたくなかっただけだ!」
「バカね、それは好きって言うのよ」
「っ!だから違うんだ!俺があいつの事が気になるのは、…責任、そうだ責任だ!
俺の意志で連れてきてしまったその責任で、気になっているんだ!」
そうだ、きっとそうなんだ。
やっと何となく納得して頷いていると、リナリーが俺の後ろを見て目配せしている。
「何だよ」と思いながら振り返れば、そこにはコムイに抱きかかえられたアヤがいた。
その寂しそうな瞳を見つけて、締め付けられるように俺の胸が痛んだ時、リナリーが「神田って本当にバカね」と呟いた。