world is yours

□world is yours 9
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適合者だと知ってて連れてきた訳じゃない。
ただあいつの世界が、いらないと、壊れてしまえばいいと願った、あいつの世界を、違うものに変えてやりたかっただけだ。

…だが、俺があいつを、アヤを、一緒に連れて行きたいと思ったのも事実だ。

深く室長室のソファーに腰掛け、俺は深く溜め息をつく。
今はアヤはコムイとヘブラスカの所へと行っている。

俺はやはり、間違っていたのだろうか。
あいつは向こうの世界で辛い過去と闘っていた。
誰にも言えないアヤの傷。
俺が癒せれば。
俺が助けられれば。
そう思って連れてきた。
なのに、

「また、闘わせるのか…」

『ありがとう』なんて言われる筋合いなんてない。
ただ俺が、一緒にいたかっただけなんだ。
『新しい世界』を与えてなんてない。
お前の役割を、こっちの世界で与えるつもりなんてなかったんだ。
『今度こそ、明確な目的で闘う』必要なんてない。
…『今度こそ』お前の代わりに、俺が…

「……チッ」

思わず舌打ちした。
誰もいない室長室にその音だけが響く。

…何だよ、何でこんな気持ちになる?
わかんねぇよ、会ってまだ1ヶ月も経ってねぇじゃねぇか。なのに、何で、…こんなに…

バンッ

「ただいま兄さん!」

っと、あら、神田?

任務から戻ってきたリナリーが、一人で室長室にいる俺を見て驚いたような顔をした。

「そういえば、3日間行方不明になってたって聞いたけど、何してたのよ?」

両手を腰に当てて、俺を睨む。

「…テメェには関係ねぇ」

顔を背けると「何よ!そのいい方!」と怒鳴られた。正直うるさい。
溜め息をつくとストンと俺の横へ腰をかける。

「何か兄さんが言うには『猫』を連れて戻って来たって言ってたわ。で、」

その『猫』ちゃんは?

横に座る俺の顔を覗き込む。俺はまた舌打ちをして口を開いた。

「…『猫』じゃねぇ、人間だ。」

「え?でも兄さんは『猫』って…」

「あいつは!『アヤ』は猫じゃねぇ!」

猫、猫とうるさいリナリーに腹が立って思わず声を荒げると、びっくりしたような表情で俺を見た。

「どうしたの?神田。」

いきなり怒鳴る俺に不思議そうな顔をしたリナリーを見て、ふと我に返り黙り込む。

「なら、『猫』の姿をした人間って事?」

ちょっと詳しく教えなさいよ、神田。

首を傾げてながらも有無を言わせない口調で聞いてくるリナリーに、俺は結局閉じた口を開く羽目になった。




「…随分と、気に入っちゃったのね」

リナリーは苦笑しながら俺を見つめる。

「そんなんじゃ…」

ねぇ、とは言い切れない。

俺はもちろんアヤの過去の傷には触れずに、違う世界に行った事、そこで『アヤ』に会った事、そしてそのまま連れてきた事を簡単に説明した。誰かに聞いて欲しかったのかもしれないこの感情も一緒に。

「ねぇ神田。」

優しい声でリナリーは俺の名を呼ぶ。

「今までの話し聞いてて思ったんだけど、神田はその『アヤ』に、」

一目惚れ、したんじゃない?

「……」

固まった。

一目惚れ?俺が?アヤに?

「…違う」

否定する俺の声が掠れる。
そんな俺の声にリナリーはまた苦笑した。

「でも気になって仕方ないんでしょ?『アヤ』の事。
それって、好きって事じゃないの?」

好き…アヤの事を…俺が…

そこまで考えてかっと頭に血が上る。

「違う!俺は、俺はただ、あいつを一人にしたくなかっただけだ!」

「バカね、それは好きって言うのよ」

「っ!だから違うんだ!俺があいつの事が気になるのは、…責任、そうだ責任だ!
俺の意志で連れてきてしまったその責任で、気になっているんだ!」

そうだ、きっとそうなんだ。
やっと何となく納得して頷いていると、リナリーが俺の後ろを見て目配せしている。
「何だよ」と思いながら振り返れば、そこにはコムイに抱きかかえられたアヤがいた。
その寂しそうな瞳を見つけて、締め付けられるように俺の胸が痛んだ時、リナリーが「神田って本当にバカね」と呟いた。
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