world is yours
□world is yours 10
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集中、できない。
座禅室で座禅を組む。
だが俺の頭でいっぱいなのは、無心どころかアヤの事。
…苦しい。
あの時のアヤの瞳。
寂しそうなあの瞳。
…胸が、苦しい。
思わず口走った俺の言葉。
聞こえていた俺の言葉。
俺は責任、を、感じている。
敵のいない平和な世界から、AKUMAのいるこの世界へ連れてきた、その俺の、責任。
しかもアヤはエクソシストだったと、コムイは言った。
…連れてこない方が良かったのか?
しかし向こうのあの世界に、周りに誰もいない、アヤのあの世界に、俺はあいつを一人、置いていきたくなかった……一緒にいたかった。
俺の差し出した掌を取ったアヤに感じたのは、言いようのないそれは、喜び。
(バカね、それは好きっていうのよ)
リナリーの言葉を思い出す。
この感情を表すのなら、そんな答えになるのだろうか。
一緒にいると苦しい。でも、離れたくない。
あいつの事を守って、そして助けて、あの傷を、癒やしてやりたい。
泣きはらして赤くなったあの瞳を見たくない。
それでも泣くのならせめて…抱きしめて、やりたい。
…そしてこれは、この感情は、責任だけじゃない、それだけじゃない。
「……信じらんねぇ」
思わず漏れる呟き。
呆気ない程見つかる答え。
俺がまさか、そんな。
もう一人の俺が否定しようとしている。だがその俺の心の奥、深い深い心の奥ではまた違う俺が、「認めてしまえ」と囁いている。
「…チッ」
舌打ちをして目を開き、座禅していた足を崩す。
立ち上がり傍らに置いた六幻を携える。
考えんのは性に合わねぇ。とりあえず、アヤに会いたい。会ってさっきの言葉に言葉を足したい。それは「責任」だけじゃなく、他にもある気持ちを足したいんだ。
「…アヤ」
あいつの名前を呟く。
それだけでまた、胸が締め付けられるようになるのを否定する事は、もう無理だった。
…いない。どこに行った?
自室の中を見渡してもいない。
こっちの世界にきてから、あいつは俺の部屋にいた。そしていつも傍にいて、寝る時は俺の枕元で眠り、鍛錬中は離れた所から眺め、そうして食事を一緒に取っていた。
教団内にはまだそんなに親しいやつはいない筈。何人か見知った顔を思い浮かべる。だがこれといってあいつと仲のいいやつが思い浮かばない。
それに今、アヤは猫だ。隠れようと思えばいくらでも隠れる場所はある。しかも教団は広い。
とりあえず、虱潰しに捜すしかない、か。
仕方なくキョロキョロと周りを見渡していると、またリナリーがこっちにやってきた。
「神田!」
俺を見付けて声をかけてきた。
「さっきのあの言い方は良くないわ。ちゃんとアヤに謝ったの?」
そう言いながら近づいてくる。
「…余計なお世話だ」
その心配そうな視線に居たたまれなり、そこから立ち去ろうとするが、腕を掴まれ引き止められる。
「そうね、余計なお世話かもね。でも神田」
真っ直ぐ見詰めるその瞳に俺はたじろぐ。
「余計なお世話ついでに言うけど、さっきの言葉、きっと誤解してるわ。アヤが好きならちゃんと言いなさいよ?」
「…わかんねぇよ、そんなの」
また言われた自身の気持ちに、答える声は小さい。そんな俺にリナリーは眉を吊り上げた。
「ならどうして『俺の意思で連れてきた』わけ?どうして『一人にしたくない』とか思うの?『責任』とか言って、神田が自分の気持ちから逃げてるだけよ。バカみたい。」
「なっ!?」
はっきりと言われた言葉にまたさっきのように頭に血が上る。言い返そうと口を開きかけるが、それをぐっとこらえてやり過ごす。そうしないとまた何か訳の分からない事を言ってしまいそうな自分がわかる。
「……」
掴まれた腕を振り払い無言で背を向ける。
「ちょっと神田」
無視して立ち去ろうと踵を返すと、また追いかけてきて掴まれる腕。
「まだ話しは終わってないわ」
「…うるせぇな、」
俺だってわかってんだよ、手を振り解こうとしながらそう口を開きかけた時、モヤシが中庭からこっちに向かってくるのに気付く。
何だよテメェか、と思ったその腕には、探していたアヤ。
自分以外の腕に抱かれたその姿に、また一瞬にして頭に血が上ったのが、わかった。