world is yours
□world is yours 11
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モヤシの腕の中に大人しくしているアヤ。
それを見た瞬間に頭に血が上る。
…俺以外に抱かれてんじゃねぇよ。
湧き上がる、ぎりっと奥歯を噛み締める程のアヤに対しての理不尽な怒り。
「……アヤ」
押し殺したような俺の声に小さな猫の体がびくっと動く。
だがそれはモヤシの腕の中でというこの光景に、何だかむかむかするような感情が俺を支配する。
…何だよこれ。すげぇムカつく。
思わず眉間に力が入り、睨みつけるようにアヤを見つめていると、俺の腕を掴んでいたままのリナリーの手につねられた。
痛ぇなと睨む視線をそっちへ移せば、「何してるのよ、ちゃんと誤解を説きなさい」と、小声と共に睨み返される。
言われた言葉にはっと我に返ってまたアヤに視線を戻せば、そこには悲しそうな丸い瞳。
泣いてなんかいないのにその瞳は、なぜか初めてこいつに会った時の、泣きはらした赤く痛々しい瞳を思い出させた。
どうした。何かあったのか?
その瞳を見て、やはり初めて会った時みたいにそう心の中で呟いて、今度はちゃんとある腕を伸ばす。
しかしアヤは俺の腕を避けるように体を捻り、モヤシの肩を飛び越え逃げ出した。
「早く追って下さい!」
モヤシが怒鳴る。
「行きなさい!神田!」
リナリーが背中を押す。
そして俺は駆け出した。
小さなその体を追って。
どれくらい走ったか。
追いかけて気付けば、教団の奥にある林の中。
見上げれば木の上には白い猫の姿。
「アヤ」
名前を呼んでもこちらを向かない。
今のこの状況を俺はどうしたらいいかわからない。
頭の中はぐちゃぐちゃで、むかむかして苦しくてそして少し、悲しい。
「アヤ、そのまま聞いてくれ」
俺は今にも小さく小さくなって、そうして消えてしまいそうな体を見上げたまま口を開く。
『責任』、だけじゃないと伝えたい。
そこに足したい言葉、それは。
「俺はあの世界に、お前を残して行きたくなかった。
俺はあの世界を、お前の嫌な世界を、変えてやりたかった。
もちろん後悔しなかった訳じゃない。しかもお前はエクソシストだった。また闘わせるのかと俺は後悔したんだ。だから責任を感じてもいた。
…だがそれよりも、」
そこで言葉を切る。
一番足したい言葉。一番言わなくてはならない言葉。
それは俺の、願い。
「…俺がお前と一緒にいたかったんだ」
「っ」
俺の言葉に、その小さな体がぶるりと震えるのがわかった。
俺を見下ろす綺麗な茶色い瞳。
そして俺はその瞳を真っ直ぐ逸らす事なく見上げたまま、両腕を差し出す。
「……おいで」
この腕の中に。
他の誰でもない、俺の腕の中に。
「アヤ」
また名前を呼ぶ。
胸がざわめく。苦しさに息がつまる。
一緒にいると苦しい、でも傍にいたい、この気持ち。
ふわりと木の枝の上で立ち上がる。
その姿になぜか人間の時のアヤの姿が重なり、俺は目を凝らす。
「…神田さん」
小さな小さな声。
切なそうな瞳がぱちりと瞬く。
そして躊躇うような心が伝わる。
「…ああ、大丈夫だ。だから、」
おいで。
もう一度言うと、柔らかく体を丸めて飛び上がる。
その小さな体が変化して、長い髪がふわりと空中に舞う。
俺は目を細める。
そして受け止める。
抱き留めたこの腕の中には少し茶色がかった艶やかな髪。柔らかそうな唇の可愛らしい顔立ち。どこか寂しそうな綺麗な茶色いいつもの瞳。
見つめられれば心臓が騒ぎ出す。
そんな、瞳。