world is yours

□world is yours 12
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俺は困っていた。
いや何と言うか、とにかくどうしたらいいかわからなかった。

アヤが猫から人に戻った。
それについては全く問題はない。だが、違う問題があるのだ。

「おはようございます、神田さん」

今から朝ごはんですか?

朝食堂に行くと、俺を見つけて聞いてくる。
まだ完璧でない彼女の英語はとても丁寧。そしてそこにはもれなくと言っていい位、柔らかい笑顔が付いて来る。

「…ああ」

頷けば更に嬉しそうに笑って、「神田さんのごはん取ってきます。天ぷら蕎麦でいいですよね」、と言ってジェリーの所へと行ってしまった。

正直、俺は参っていた。
俺が猫になっていた時の目と、今の目は違うのだろうかと思う程…いや更にも増して、かわいいのだ。アヤが。
今まではどちらかが猫の状態だったので、人として並んだのはこっちに戻ってきた時のあの一度きり。こうしていざお互いが人として向き合ってみれば、何と言うか、緊張するというか、とにかくどう接すればいいのかわからない。
自分が猫の時に見ていたアヤの全体像。
俺が今見ているアヤの全体像。
それは同じはずなのに明らかに何かが違う。
ぎゅうっと抱き締めたくなって仕方がない。
そりゃ俺が猫の時はアヤのあの柔らかい頬や細い指先や、かわいらしい唇を舐めたり、あいつは俺の鼻にキスしたり抱っこされたり、無論逆に抱っこして頬擦りしたり……よくそんな事出来たな、俺。
ちょっと前までの俺を省みて、無償に恥ずかしくて仕方がない。
アヤが人に戻った瞬間。
ふわりと泣きそうな表情の笑顔。そして腕の中に収まる柔らかい身体を思い出す。

……どうすりゃいいんだよ。

そう、どうしたらいいのかわからない、これが問題。そしてまだある問題。これが一番の困るというか、ムカつく問題。

「…何難しい顔してんのよ」

半ば呆けたように立ち竦んだままの、俺の後ろからかけられた声。

「…うるせぇな」

振り返ればリナリーが食事のトレイを持って含み笑いでそこにいる。

「アヤの背中見つめたまま固まってるし、ほんっと、気になって仕方ないの、まるわかり」

くすくす笑いながら「座れば?」と促されて仕方なく腰かける。

「でもわかるわ。人間のアヤって何かほっとけない感じ。危なっかしいというか、私が男だったら襲っちゃいそう。」

「襲っちゃいそう」、その言葉に俺は固まる。
もちろんリナリーは深い意味があって言ってるわけじゃない。ただの軽口とわかっている。けれどそれはアヤにとってはタブーだ。しかし一方では妙に納得している俺がいた。
そうなのだ。
あいつは言い方は悪いが変に隙がある。
柔らかくてふわふわしていて、男に付け入られ易い何かを感じる。
くすぐるのだ。心を。
それはかわいらしい顔立ちや小さな身体や、なのに主張している胸が男の衝動を掻き立て、守りたいのにめちゃくちゃにしてやりたくなるような、そんな感覚を覚えさせて、ある種の焦燥感を植え付ける。

これは早い所、何とかしなければならないな。

ちらりとジェリーと話すアヤの後ろ姿に視線を送る。
教団内は圧倒的に男が多い。
あいつが猫から人間に戻った今、不埒な事を考えるやつがいないとは限らない。いや、確実にいるだろう。現にさっきから食事をしながらちらちらとあいつを見ている男の多い事ったらないのだ。

「心配ね、神田」

まるで俺の心を読むようにリナリーが言う。
視線を戻せばからかうように笑っている。

「ちゃんと捕まえとかないと、取られちゃうかもよ?ほら、あんな風に。」

そう言って指し示すその方向。
反射的にそちらへまた向けば、モヤシと仲良そうに話し込むアヤがいた。

「…チッ」

漏れた舌打ちにリナリーの苦笑が聞こえる。
何か言い返そうとは思ったが、そんな事よりもムカつく問題のその光景を見て、俺が立ち上がるのが先だった。
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