world is yours

□world is yours 13
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「…蕎麦は?」

目の前のモヤシを睨み付けながら、背後のアヤに声をかける。

「あ、えっと…」

ちらりと少しだけ振り返り視線を送れば、そこには驚いてはいるがどこか安心した瞳で、ふわりとまた柔らかく笑って見返していて、俺はその瞳にぐっと胸が掴まれたような感覚を感じた。

「まだ、みたい「お待ちど〜アヤちゃん!あらん、神田」

小さな唇が動く。だがほぼ同時にジェリーが蕎麦と共に現れた。

「…今どういう状況なのかしら」

ジェリーはアヤをモヤシから隠すように立っている俺を面白そうに眺めながら、蕎麦をカウンターに置いて頬杖をつく。

「バ神田が蕎麦を待ちきれなくて取りに来ただけです。
…誰かに取られる前にね」

にっこりとそれまで黙っていたモヤシがそう答えて笑うが、その目は全く笑っていない。

「アヤ、僕も食事、一緒にいいですか?」

その挑戦的とも云える視線は俺に固定したまま、隠れたアヤに対しては優しい声を出すという事を器用にやってのける。
背後からつん、と団服を摘まれる気配にまた振り返れば、アヤが俺に問いかけるように見上げていた。

…これは俺の許可を待っているのか。

こういう行動は猫の時と変わらない。
懐かれてる、と兎が以前言っていたが、まさにそんな感じ。
だがモヤシと一緒になんて嫌だ。それにあんまり(どころか絶対に)仲良くして欲しくないのが正直なところ。

だが断る理由も見当たらない。

はあと溜め息をつく。
カウンターに置かれた蕎麦を2人分、持ち上げる。

「自分で持ちます!」

俺の行動に一瞬虚をつかれたように戸惑うアヤだったが、すぐに片方の蕎麦へと手を伸ばしてきた。

「…いい」

そう言って踵を返し歩き出すと、慌ててアヤが付いて来る。
ちらりと横目でモヤシを見れば、ニヤリと笑ってこっちもワゴンを押しながら一緒に来た。

来んなよ。

心の中で呟くが、アヤの前でその理由を口に出す事も出来ない。

…2人っきりがいいとか、他の男と口きくなとか、言えるわけねぇだろ、そんな狭量な事。

舌打ちをまた一つする。
大人しく俺の後ろを付いて来るアヤにまたモヤシが話しかけている。
三人で食べるなんて本当に胸糞悪いので、先に食事をとっているリナリーの所へと向かう。これのがまだマシだ。
そう思いその目の前と横に蕎麦を置くと、リナリーが何か言いたげに笑っていた。

「…何だよ」

鬱陶しいその笑みに不機嫌な声を出せば「別に」と答えて、今度は俺の後ろから来たアヤに視線を移す。

「おはよう、アヤ、アレンくん」

にっこりと2人に微笑みかけるリナリーはまるで、何も企んでなんかいませんよ〜とでも言いたそうな顔だ。

「おはようございます、リナリー」

「…おはようございます」

モヤシと共に小さな声がする。
一瞬、躊躇うようにちらりと俺を見たがそのまま隣りに腰をかけた。そしてモヤシはリナリーの横に腰掛ける。

「アヤと一緒に食事をするの、初めてね」

うふふと笑うその顔は実に底が知れない。あの兄の妹だけはある。

「そうですね」

すると隣りで箸を取るアヤからはなぜか妙な緊張感が伝わってきて、何だ?と思わず食べ始めていた箸を止めて見れば、どうやら本当に緊張している様子。

「…どうした」

不思議になり声をかけるとぴくっと持った箸が反応して、なぜか不安そうな瞳で俺を見上げた。

「…何でもない、です。えっと、これ…」

言葉を取り繕うように箸で持ち上げられたそれはシシトウの天ぷら。

「そういやあまり好きじゃないんだったか」

確か向こうの世界でもそうだったな、と、苦笑して、俺は何の気なしに目の前に持ち上げられたそれをパクリと食べた。

「「あ」」

向かいの2人が声を揃える。

「あ?」

その声に視線を送れば意味深に笑うリナリーと、不機嫌そうに俺を睨み付けるモヤシ。
リナリーが俺の横にちらりと目線を送るので、隣りのアヤを見れば、その大きな瞳を更に見開いて見つめた箸の先。

あ…

途端にその声を理解した俺までも、その箸の先を見つめて固まってしまったのだった。
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