world is yours
□world is yours 17
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LEVEL1からLEVEL2へ、戦闘中に変えるその姿にアヤの身体が戸惑う。
ただでさえ初めて見るAKUMA。初めての戦闘。
ここまでか、いや充分だ。
初任務にしては予想以上の動きを見せたアヤに安堵しそして感心した。俺は実際見惚れていたのだ。AKUMAの間を舞うようにして次々に破壊していくその闘いに。
「大丈夫か?」
変化したLEVEL2と残る一体を難なく倒し、六幻を納めて背後のアヤを振り返り、上から下まで眺めれば、ああ良かった、少しも怪我はないようだ。だが見開いた瞳が俺に固定されたまま。
「アヤ?」
固まるその視線を訝しく思い、身体もそちらへと向けてその細い肩を揺すれば、は、と零れる呼吸と一緒に今度はがくりと膝から崩れる。
「っ、おい!」
慌てて俺はその腰を掴み支えた。
覗く瞳が潤んでる。
でもそれは恐怖から泣きそうとか、戦闘が終わった安心からだとかそんな感じではなくて、何と言ったらいいのか、この感じは…俺まで、巻き込まれそうな、その感じは。
腰に廻した掌の熱が上がる。
見合わせた瞳に熱が上がる。
ゆっくりと長い睫毛が揺れる。
何だ、これ。目が、逸らせねぇ…
鼓動が早い。早すぎる位早い。でも、勝手に身体が、近付く。それは二度目。
顔を傾けて。息がかかる程の。
「か、神田、さん…」
小さな声にびく、と俺の方が震えた。
その茶色い円い瞳がぱちりと瞬いたのを確認したら、ぱ、と支えた腕を離す。
…何を、俺は、こんな時に。
がっと頭に血が上る。
AKUMAを殲滅したとはいえ、まだ任務の最中だ。なのに今、俺は何をしようとした?
自分の行動。それは食堂での出来事と、初めてこいつと鍛錬をした時と同じく無意識。
揺れる、揺さぶられる。
心も、身体も。
一歩下がる。
感情を抑える為に。
もう一歩下がる。
触れたくて仕方ない気持ちに。そうして一つ息をつく。
それは無意識の行動にこいつを巻き込まない為に。
「…アヤ」
少し間を置いて名を呼ぶと、それだけでじわりとまた感情が広がり胸を騒がすが、努めて冷静さを装いさっきまで発動していた手のひらに視線を送る。顔なんて見られない。抑え込む心が暴れてしまう。そんな事したら。
「…大丈夫か?」
再び問いかける。
怪我がないのはわかってる。確認もした。俺が傍にいるのに怪我なんてさせたりしない。けれど他に言葉も見当たらない。でも何か言葉を発しないと誤魔化せない。この騒いで仕方のない気持ちを。
その小さな手の中でぎゅっとイノセンスを握りしめてるアヤがぽつりと声を出す。「ごめんなさい」と更に小さく。
「私、全て倒せませんでした。
神田さんに、助けて貰わなかったら、私…」
胸の前で握りしめてられた手が、白い。握り締め過ぎてきっと血液の流れが悪くなってしまったからだろう。それが唇を隠すように上へと上がり、つられて上がる俺の視線に俯くアヤが入る。
表情は見えない。けれど戦闘が終わりその時を思い出したのか震えてる細い肩。
そのいたいけな姿に俺の腕がまた抱き締めようと無意識に上がるが、すぐにぐっと抑えて代わりにその頭へと置くと、びくっとその肩が跳ねた。
「…謝る必要はない」
そうだ、充分だ。
怖かっただろうに、不安だっただろうに。
元帥に教えて貰う時間もなくすぐに戦闘に駆り出された。その上でこいつは、
「…よくやった」
優しくその触れた頭を撫でる。
「お前はよく、やった。」
俺の言葉にまたびくっと肩が揺れ、俯いた顔が上がったかと思った瞬間、ぱっと離れて向けられた背中。
「どうし…」
た、と言いかけて口を噤む。
息を呑む。
アヤの小さな小さな背中と上げられた髪から覗く、細い細い首筋と白いうなじ。そして曝されたかわいらしい耳。その耳が、
…赤い。
気付いた瞬間、俺の身体は勝手に動いて、後ろから、抱きしめていた。