world is yours

□world is yours 19
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「ご苦労様、神田くん、アヤちゃん」

目を通した今回の任務報告書をひらひらとさせながら、コムイがにっこりと笑う。

「じゃあ今日の所はゆっくり休んでいいからね」

そう言われて俺とアヤは立ち上がるが、踵を返す俺だけをコムイは引き止める。

「神田くんはちょっと待って」

確認したい事があるんだ、と言うコムイに俺はアヤへと先に行くよう目で促す。すると少しだけ不安そうに瞳を揺らすが、それを隠すように微笑んで頷くその様子が妙にいじらしくて、ぐっと心臓を鷲掴みにされる。

ああもう、何でそんなにかわいいんだよ、お前は。

抱き締めたくなる。しかしコムイの手前それは出来ずそれを抑えてやり過ごしただ頷いて促すと、アヤはコムイに軽く会釈をして室長室を出て行った。
パタンと閉まる扉。
それを見送りコムイへと向き直れば、そこには恐ろしく真面目な表情のヤツがいた。
何だ、どうしたんだと訝しく眉間に皺を寄せれば、「神田くん」と何かを堪えるような声で呼ばれる名前。その声音に俺がまた眉間に皺を増やせば机に肘を着き、組んだ手を口元に、キラリとメガネを光らせる。

「…神田くん、アヤちゃんとはどこまで進んだかな?」

「は?」

「あ、間違えた。アヤちゃんはどこまで出来たかな?」

いやあボク心配でさあ。

手に隠れた口が笑っている。
明らかに楽しんでいるのがバレバレだ。

「いや、初任務だし?アヤちゃん気の弱い所あるし?だからこそ唯一気を許してるっぽい神田くんに任務の同行を頼んだワケだし?むしろ神田くんに『同行させてくれ』って頼まれたワケだし?」

含みのあるその言い方に、俺の頭にがっと血が上る。

「何を、」

言いてぇんだと噛み付きかける俺を制止するように上がるコムイの掌。

「いや元々さ、ボクは初めから神田くんにアヤちゃんの初任務の同行を頼もうと思ってたんだけど、まさか神田くん自身が言ってくるとは思わなくてね。」

しかもあんな風に。

もうにやけ笑いを隠そうともせずに俺を見ている。その視線でこの男が何を思い出して言っているかわかって、目の前まで赤くなってしまいそうだ。

「あんな風にアヤちゃんをあんな顔で見つめながら『頼む』なんて言われたら、どっちに言ってるかわかんないよねぇ。
あれはボクに?それともアヤちゃんにかな?」

「〜〜〜うるせぇ」

居たたまれなくなった俺が思わず六幻に手をかけても、コムイのにやけ笑いは収まらない。一体何が言いてぇんだ。からかう為に俺を呼び止めたのかよ、と睨み付ければ、ふっとコムイは笑みを変化させて今度は優しく笑う。

「いいんだよ神田くん。
好きなんでしょ?アヤちゃんの事。
応援するよ神田くん。むしろ頑張って。
うん、いいよ、恋。神田くんの恋。神田くんの……これは是非ともティエドール元帥にも報告しなければ」

「おい待て!」

楽しげに頷いてぼそりと呟いた最後のセリフに俺は静止をかける。こんな事あの狸オヤジに知られたら、何て言われるかたまったもんじゃない。

「何でそこで元帥の名前が出んだよ!」

「あ、好きなのは否定しないんだ?」

「〜〜〜」

無償にコムイを殴りたい。
いや六幻の錆にしてしまいたい。
視線で人が殺せるなら殺してやりたいと思える程に睨みつけるが、コムイは全く意に介さない風に興味津々な目を向けている。

「で、実際どこまで進んだの?
もう告白位したの?」

「余計なお世話だ!」

きらきらと輝くその目がうざい、キモイ、殴りたい。
思わず怒鳴ればコムイはまたぼそりと「これはやはり元帥に報告を」と言ってるのが聞こえてきて、ああちくしょう!とドカリとソファーへと座り込む。
そんな俺をコムイは「どうなの?」と見つめてる。

「……した」

「ん?何だい?聞こえないなあ」

耳に手を当てさあどうぞと言わんばかりのコムイに向かって、また怒鳴る。
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