world is yours

□world is yours 20
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本当に腹立たしい。

目の前の光景に舌打ちする。
並びあって楽しそうに話をする2人の姿。
アヤとバカ兎だ。
一体俺と離れていたほんの僅かな時間に何があった、と聞きたい程、2人が親密に見えるのは何故だ。
そして何でこの面子でメシを食う羽目になっているのかまるで理解出来ない。

「…いいんですか?神田」

俺の横では苦々しい顔をしながらも、大量の料理を平らげていくモヤシが聞いてくる。

「…何がだよ」

しかしこっちの質問は理解出来る。が、それに答える事すら腹立たしい。

「何でかわかりませんが、やたらと2人が仲いいのは何故なんでしょうか」

「知るか」

それはこっちが聞きたい位だ。
目の前では兎が何事か言って、アヤが驚いたような顔をして、そして笑い合う。それは無防備で柔らかくて、今までは俺にだけ向けられていた笑顔で。

…腸が煮えくり返るってこういう事を言うのか。

そう思う程イライラして仕方がない。
見れば隣のモヤシも何だかいつもより食事の仕方が荒い気がする。

「何か腹立ちますね、ラビは後から来たくせに。いつの間にか僕より親密になるなんて。…許せません」

その背後に黒い影が見えたが、俺も同じなので放っておく事にした。
しかしアヤのその様子を見ながらふと思う。
アヤの世界。俺が見た限りは誰もいなかった。家族は遠く、恋人と親友はいっぺんに失って、唯一過去の傷を話せたという猫も死んだ。誰にも必要とされない、誰も必要と思える人がいない。壊れてなくなってもいい、むしろ自分自身がいなくていいと思える世界。嫌な思いと傷だけをその小さな身体に刻んで。
…なら新しい世界をと、ここが新しいアヤの世界になれればいい。
アヤが愛せる世界になればいい…俺がそうすればいい。
確かに目の前の光景は腹立たしいが、彼女が楽しいと思えるのであればそれでいいかもしれないのだ。親しい仲間や笑い合える友人がいて、それで彼女が精神的にも強くなれるのであれば。エクソシストとして、何よりも人としても強く。

…とは思うが、やはり腹が立つ。俺はそこまで人間が出来ていない。好きな女が目の前で他の男と仲良くしてたら、死ぬ程ムカつくのは当然だろう?

たん、と食べ終わった蕎麦の器を置く。
気付けば横にいたはずのモヤシはいなくなっていて、いつの間にかジェリーの方へ行っている。
ああ全く、と自分の狭量な所も嫌で仕方がなくて、アヤへと目を向ければふと合う瞳。
するとほんのりと頬を染めたアヤが綺麗な茶色い瞳をぱちりと瞬かせ、「神田さん」とその小さな唇が動いてふるりと揺れた。

「っ」

ガタリ、と席を立つ。

だめだ。
もう耐えられない。
もう我慢の限界だ。
これ以上は俺が嫌だ。

「アヤ」

その名を呼ぶと少しだけ驚いたように目を開いた後、ゆっくりと柔らかく、そしてふんわりと微笑む。

やばい。

ぐらぐらする。
どうしてこいつはこう云う顔をするんだ。
めちゃくちゃに俺の胸を掻き乱して、そしてめちゃくちゃに抱き締めたくなる。
手を伸ばして腕の中に収めて、誰にも見せたくないとすら思わせる。
叫びたくなる。見るな、触るな、話しかけるな、これは俺のものだ、と。
だがそれを俺は抑え込む。
言葉を、嫉妬を、独占欲を飲み込む。

「…食事が終わったのなら鍛錬に行くぞ」

ふいっとその愛しいとも思える笑顔から逸らし、俺は背中を向けて歩き出す。
後ろでは兎が「帰ってきたばかりでそりゃないさ」と抗議の声を上げるのが聞こえるが、アヤが立ち上がる気配がして、俺は思わず口端を上げる。
近付いてきてちょこんと後ろへ立つ気配に俺は嬉しくて仕方がない。

そうだ。こいつは俺のものだ。
こいつの世界は全て俺で作られればいいと自分勝手な思いにすら捕らわれて、俺はその小さな手を自分に絡め捕るように握り締めた。
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