手をのばして抱きしめて
□手をのばして抱きしめて 第4夜
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「ルキが自分のカバン落としちゃって、中の荷物が散らばっちゃって大変だったさ〜」
兎の話に何かが引っかかった。
「で紳士のオレはそれを拾うのをお手伝いしたんだけど、そしたらその中に下着があってさ、それを拾って渡した時のルキの顔、真っ赤でかわいかったさぁ」
…コイツのどこが紳士なんだ。
下心満載だろうが。
洗い終わり変態エロ兎を置いてアヒルの浮かんだ湯船につかると、また追いかけてきやがった。そしてアヒルをいじりながら、横で滔々とルキについて話し続けていた兎がふいに話しを振ってくる。
「…ユウ、夕べからルキと2人っきりだったんだろ?」
アヒルをこっちに向けてガァガァと鳴きまねをしている。…アホだ。
「…任務先で拾ったんだ、仕方ないだろうが」
俺の言葉に「ふ〜ん」と気のない返事を返す。
「…そしたらルキはユウの拾った拾得物ってワケさ?」
「は?」
ポイッとアヒルを俺に渡してラビは湯船から出た。
「ここ、」
トンっと背中を指で指される。
「爪の痕、残ってるさぁ」
その言葉に慌てて指摘された箇所を見ようとした。が、しかし自分の背中は見れない。
「ユウも男の子なんさね」
のぼせそうさ〜とラビは風呂から上がり、こちらを見ずに出て行くその後ろ姿を呆然と見送る。
ぷかぷか浮かぶアヒルと俺だけがそこに残されたのだった。
部屋に戻り六幻の手入れをする。
戻る前に鏡で見た背中に、確かに紅い引っかき傷があった。
洗っていた時に感じた痛みを思い出す。確かにこれはルキの付けた痕。
何で消えてねえ?
こんな少しの傷、俺なら直ぐに消えるはず。
治りが遅くなっているのか?
六幻を翳し考える。
しかし答えは出ない。
「チッ」
舌打ちをし六幻を置く。
ラビのヤツ、コムイと同じ事いいやがって。
余計な事を言い触らされる前に刻んでおくか…
そんな不穏な考えが頭をよぎった時、帰ってきてから何も食べていない事を思い出し、とりあえずメシを食べてから刻む事にしようと、部屋を出て食堂に向かう。
「あれ、神田じゃないですか」
任務から帰ってきたらしいモヤシに会った。…最悪だ。
「帰ってきて早々に神田に会うなんて、余計に疲れが増しますよ。」
心底疲れた表情のモヤシが俺を見る。
「それはこっちのセリフだ。」
俺だってこれ以上疲れたくない。
そのまま食堂へと足を向けると、何故か後ろをついてくる。
「ついてくんなモヤシ。」
「僕だって神田の後をついていくなんて、まっぴらですよ。
これから食堂に行くんです、僕の至福の時間を邪魔しないで下さい、このパッツン」
「ハッ、俺だって今からメシだ。モヤシは後にしろ」
「嫌です。
そっちこそ後にすればいいんじゃないです?蕎麦しか食べない蕎麦男が」
「何で俺が後にしなきゃならねぇんだ!」
2人の足がどんどん早くなり、ついには駆け出した。
「どけ、モヤシ!」
「バ神田こそどいて下さい!」
抜きつ抜かれつ走り続けていると、あっという間に食堂は目の前。
「俺の後にしろ」
「だからイヤですってば!
それに後なんてご馳走がなくなったらどうしてくれるんですか!!」
「…ご馳走?」