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□王(俺)様と誕生日
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ドサッ、ガチャン、パリン

「こんのバカ女!そんなの持ったまま飛び降りるヤツがあるか!」

耳元での大音量。
だけど高所からの飛び降りに、バクバクいう心臓の音がそれを弱めてくれていた。

「しかもテメェは俺が命令したら何でも言うこと聞くのかよ!」

苛立ちと怒りで噛みついてくるように私を怒鳴るが、「でもユウ様の命令は絶対です」と未だ跳ねた心臓のまま小さく答えれば、目の前で素敵に端正なユウ様の顔色が変わった。

「…そうかよ」

「あの、ユウ様…」

下ろして下さい。

近い石鹸の香り。ユウ様の匂い。
飛び降りた私を受け止めて歩き出すユウ様を困惑気味に呼ぶと、ますます眉間に皺を寄せて「下」とただ一言。
ユウ様の肩越しに見えた地面。
散らばって割れた食器が累々と落ちている。

「っ、申し訳ありません!すぐに片付けます!」

「バカ!暴れんな!」

その惨状に慌ててその腕から下りようと身を捩れば、また怒鳴られた。

「全く普通は食器ごと飛び降りたりしねぇよ、バカだなお前」

「…返す言葉もないです…」

ヘコむ。マジでヘコむ。皿を割るのは何度目、いや何枚目?ああ飛び降りる前にテーブルに置いときゃ良かった。でも片付けないとというメイド魂(何だソレ)がトレイを手放さなかったのと、「早くしろ」というユウ様の命令がごっちゃになってしまったんだから仕方がない。むしろメイドの鑑かも、私。

一人でうんうんと頷いていると、次には何でユウ様は私をこうして抱っこして歩いているのでしょう、と今度は今の状況を思い返した。

「あの〜ユウ様」

「何だ」

「下ろして欲しいので…」

「ダメだ」

即答?

言い終わらないうちにダメ出しされる。なぜだ?と訝しげに首を傾げれば、視線は前方に向けたままで歩き、むっつりと不機嫌そうなユウ様の顔。

「…お前そそっかしいだろ?」

「…ええまあ」

「その上のろまで、」

「はあ」

「バカで、」

「ええっと…」

「おまけに間抜け」

「…私何かユウ様にしましたか?」

今ちょっとムカッときましたよ?けど当たっているだけに言い返せないむむむ。でもだから「一回死んどけ」なのかも。さっき言われた事を思い出せばどんどんとまたヘコんできた。
確かに、壺は割るわ皿は割るわ服も焦がすし料理も出来ない。その上バカでのろまで間抜けでおまけに重度の不器用メイド。こうして雇ってもらえてるだけで感謝しなくてはならないのだ。

「…本当にごめんなさい…」

居たたまれない程の申し訳なさにぽつりと呟けば、ユウ様の足が止まった。

「…そんなバカメイドが割れた皿なんか触ってみろ」

絶対、怪我するに決まってんだ。

前を見たままそう言ってまた足を動かす。
私はというとその呟きのような言葉の意味が一瞬理解出来なくて、やや呆然としてその顔を見上げたまま固まっていた。

ええっと、ユウ様は私を下ろしたら私が割れたお皿を片付けるのがわかってて(いや割ったのは私なんだけど)、それで怪我したりするのを心配してくれて(私が間抜けだから)、それで…

「ユウ様!」

「っ」

思わずぎゅっと抱きつく。
ユウ様は驚いたように身体をぴくりと反応させたが、私を落とさない為か腕に力をこめた。

「なんてお優しい!ここまでお育てした甲斐がありました!」

「…いや育てられた覚えはねぇ」

ぶっきらぼうに言い返されるが、うん、耳が赤いです、ユウ様。

「私はわかっておりました。
ユウ様は実はお優しい方だと!」

「…実は、ってまるで普段は優しくねぇみたいじゃねぇか」

「え?違いますか?」

「……」

返事はない。だって普段は優しくないですもんね、とその顔を覗き込めば、一瞬目が合うがすぐに逸らされて止まる足。おやここは睡蓮咲く池のほとりですね、綺麗ですよね睡蓮。

「…お前今、濡れたら困るもんとか持ってるか?」

「は?…持ってはいませんが…」

意味不明な質問にまた私が首を傾げると、「そうか」とユウ様は口端を少し上げていきなり私を池に向かって放り投げた。




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