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□王(俺)様と誕生日
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前言撤回。
優しくありません。ユウ様は短気で意地悪でいじめっ子です。

ばしゃばしゃともがく池の中。

「た、助けて〜私泳げないんですよ〜」

死んじゃうよ〜

「だから一回死んどけつったろ?」

冷たい、ユウ様冷たい!しかも池の中に落としたのユウ様じゃないですか!なのに助けもせず、え、何?「立ってみろ」って何です!?立つって何…ああ、なるほど。

「…浅いですね」

「…お前のバカは本当に死ななきゃ治らないよな」

慌てすぎだ、間抜け

聞こえてくるのは深い深〜い溜め息。いやつきたいのは私の方です今回ばかりは許せません!

「いきなりこんな事されたらバカでも間抜けでも、慌てるに決まってるじゃないですか!」

「バカで間抜けなのは認めてんだな」

膝丈までの池の中で頭までびっしょりの私の姿を、上から下まで眺めてニヤリと笑う。

「おいバカ女」

「……何ですか、ユウ様」

低い声で睨むがユウ様は余計に楽しそうに目を細める。

「お前さっき『俺の命令は何でも聞く』って言ってたよな」

…そこまで私言いましたか?

「お前の後ろ、見てみろ」

むすっとする私の様子はまるで意に介さないで、私の後ろを指差した。

「何ですかも〜…ああ睡蓮の向こうに何かありますね」

仕方なしに振り返り広い池の奥の方に目を凝らせば、確かに睡蓮の群生した少し先、何か布のようなものがぷかぷかとしている。

「取って来い」

「なっ!」

上から見下ろし腕を組むその姿。何というか顔が整っているだけに迫力があって妙に逆らえない…いや主(あるじ)に逆らうなんてしませんよ?私は従順なメイドですからね!

「…かしこまりました」

なので怒りを納めてにっこりと笑みを浮かべ(引きつっちゃったけど)、ばしゃばしゃと水を蹴り上げながら池の中心へと向かう。

確かに私はユウ様の為ならなんでもします。けどこうしていきなり何も言われずにやらされるのは、少しだけ、嫌です。

「ちゃんと普通に『取って来い』って言えばいいのに…」

ぷうっとむくれながら群生した睡蓮へと向かう。水を吸った踝丈のメイド服が重くて、更に足にまとわりついて歩きづらい。

別にユウ様の頼みなら例え火の中水の中(実際水の中だな、ははは…笑えない)、どんな些細な事でも叶えて差し上げたいのに…出来る出来ないは別として。

はあ、と溜め息を落とす。
私が動けば睡蓮が揺れる。
ゆらゆらと池の水面を漂う。
その様子はとても優雅だった。

…これか

屈んで手を伸ばして拾い上げる。やはり水を吸った布は重くて多少力がいったが、持ち上げて目の前に翳した。

あれ?これって…

見たことのある形。というよりこの形の服は今私が着ているのと同じ、

「…メイド服?…きゃあっ!」

「おいっ!」

濡れたスカートが足に絡まり崩したバランス。一瞬呆けた思考が飛んで私の身体も滑って飛んだ、後ろに。


バッシャーン


視界の隅。倒れる背後に見えたのは、焦ったような表情のユウ様。

ああユウ様も、そんな表情するんですね。

珍しいもん見たなあと不思議と嬉しくなって思わず微笑む。そうしてゆらゆらと睡蓮と一緒に水面に揺れる私の見上げた視界には、青い空と、苦虫を噛み潰したような、

「…ユウ様、」

「…バカ女…」

「いい天気ですね」

「…睡蓮、潰すんじゃねぇよ」

何となく気分が良くて素直に思った事を口にすれば、息を切らし少し呆れた顔で、だけど少し安心したようなユウ様も小さく笑う。

「拾いました」

これですよね、と身体を起こしてメイド服を持ち上げると、その腕ごと掴まれた。

「…それはお前のだ」

「私の?」

言われた言葉にやはり首を傾げる。ユウ様は掴んだ腕に力を込めて、私を睡蓮の中から引っ張り出した。



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