series

□王(俺)様とオレ
2ページ/3ページ



「ぁ…ぇと」

もちろんオレ達の会話は聞かれてて居心地悪いんだろう、俯いた視線は割れた茶器に注がれて、細く発した声は心なしか揺れている。
ユウに目を向けるとこっちはこっちでそれこそ鳩が豆鉄砲食らったみたいに目を開いたまま固まってて、オレはその様子に一瞬吹き出しそうになるのを何とかこらえた。
ああこりゃマズいよなぁ、とのんびりと立ち上がる。
固まって動かない2人の間に行ってまずメイドちゃんを見れば、すぐに我に返ったのかしゃがんで片付け始める割れてしまったカップやポット。なのでオレも手伝おうと手を伸ばしたその時、背後から聞こえた怒鳴り声がその手を止めた。

「ノックもせずに入ってくんじゃねぇよ!本当に使えねぇな、このバカ女!」

…逆ギレ?でもちっとその言い方はひどくないさ?

からかったオレも悪いとはいえ、照れ隠しであるのもわかっているとはいえ、さすがに可哀想なその言葉。
つかユウ、そんなんじゃいつまで経っても告白なんて出来ないさ、と思いながらメイドちゃんへ視線を送れば、悲しそうに瞳を下へ伏せそれでも小さく「申し訳ありません」と動く唇。

「…火傷、してないさ?」

あまりに気の毒(オレのせいでもあるし)になって問えば、悲しそうな瞳をこっちに向けて「はい、ありがとうございます」とふわんと微笑む。あれ?この子、ほんとに結構かわいくね?ちょっとときめく、っつーよりストライク?

あれま、これはなかなかどうしてな優良物件ならぬ、ユウには勿体ないくらいのかわい子ちゃん。間抜けでどんくさいらしいけど、またこれはこれでアリだと思う。

「ほんとにどこも火傷してない?脚とかにお湯、かかってないさ?」

オレの女好きのイノセンス、じゃなくてモードが勝手に発動。ええ〜だってかわいい女の子が目の前にいたら、オトコノコとして自然と優しくしちゃうのは仕方ない事だし!、とミニスカメイド服から覗く脚へ視線を向けると、また背後から怒鳴り声。

「とっとと出ていけ!」

「は、はいっ…あ、でも」

「いいから出ていけって言ってんだ!!」

ギクッと跳ねた身体。でもやっぱり片付けようと屈みかけた所をまた容赦なく怒るユウ。つーかユウ、怒鳴り過ぎさ。
だがその怒鳴り声に慌てたようにメイドちゃんは今度こそ身体を起こし、まるでここから逃げ出すみたいに出て行く。あーあ、ユウ、やっちったよ。

「……ユウ」

「……んだよ」

カチャリカチャリと割れた茶器を、メイドちゃんの代わりにオレが拾いながら後ろにいるユウを見ずに声をかける。すると返ってきたのは当然ながらイライラと不機嫌そうな返事。ほーんと、色んな意味で分かり易いよな、とオレは見えない所でそっと苦笑して。

「…怪我とかないか、心配なら追いかければ?」

「っ!誰が!」

…とか言いながらもオレの横を通り過ぎようとしているヤツは誰さ。

「…茶を取りに行くだけだ」

うんそうさね。でもそんな事聞いてないけどな。しかもさっきまでさんざん「帰れ」って言ってた癖にな、という心のツッコミは飲み込む。だってそうしないとユウは素直じゃなくて意地っ張りだからきっと、止まってしまうだろう。

メイドちゃんが出て行った扉を開く。ユウはそこで一瞬ぴたりと固まったが、すぐにパタンと静かに扉は閉められた。

「…さて、」

閉めた扉を薄ーく開く。案の定、そこから聞こえてくる話声にそばだてるオレの耳。




(本当に、申し訳ありませんでした。すぐに代わりのお茶をお持ちしますので)

(……)


おおっと。追いかけて行ったクセにだんまりさ?


(あの…ユウ様…(いらねぇ)…わかりました。
……本当に、私…すいませ、)

(…うるせぇな。いちいち謝るな)

(…はい。でもいつも本当にご迷惑かけてばかりで、)

(……)

(私、神田家のメイドとして恥ずかしいです…それにあまりにも役立たずでユウ様に申し訳ない…)

(……)


おーい、ユウ。黙ってないで慰めてやれって。


(だからユウ様がもし、使えないって思ってらっしゃるのであれば、私…ここを…)

(…出て行って行く所なんてあんのかよ)

(ありませんけど、でも、)

(それとも、お前が出て行きたいのか?)

(そんな事!けどあんまりにも私どんくさくて間抜けでしかもバカで…おまけに使えないって…それに使用人ならもっと良い方が…)


おいおいヤバい雲行きだな。どーすんだよユウ。大好きなメイドちゃんが出て行っちゃうじゃん。ここは照れてる場合でもないさ…って、ん?なんかユウの肩、震えて…


(……こンの、バカ女!!)

(ひっ!痛っ)


うお、オレも驚いた。
しかも頭叩いてるし…ひでぇ。


(いいか?よく聞け)

(は、はははい。なんでしょう)

(確かにお前はただの使用人だ。ただの使用人だが俺にとっては……)


お、何?まさか告白か!!?





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ