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□王(俺)様と私
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「あん?どうし…」

「大変申し訳ありませんご主人様!」

頭を下げて素直に謝る、これに限る。

「私の手違いで朝食、と言うか食事の準備が全く出来ておりません!むしろ一週間出来ないかもしれません!かくなる上は私を煮るなり焼くなりなさって下さいませ!」

へへ〜と平伏す私はまるで時代劇のよう。周りは全くの洋風だけど。

「は?なぜだ?」

上から降ってくるもっともな質問に、私は正直にジェリーの店が一週間休みでそれを忘れていた事を伝えると「それ手違いじゃなくてただのお前のミスだろ」と言われた。う、至極ごもっともでございます。

「…じゃどうすんだよ」

う、それも至極ごもっとも。しかしそれに対しての何の解決策も決められないままこの部屋に来てしまった私は、何も返す言葉もなく、頭を下げたままただ沈黙を守っていれば、呆れたような溜め息が聞こえてきた。

「…バカ女」

「はいいっ!」

「叫ぶなうるせぇ」

ゴン!

「…すいません、ご主人様…」

叩かれた(殴られた)頭を撫でながら土下座から復帰する。

「ええと、とりあえず林檎でも剥きましょうか?」

「自分の手まで剥く女がか?」

「ならグレープフルーツでも切ります?」

「汁を目に飛ばして悶えてたやつがか?」

「スイカはどうです?」

「食べ過ぎて腹壊してたやつが何言ってる、っつーかうちには果物しかねぇのか!」

「まあご主人様ってば、スイカは野菜ですわ」

ゴン

「…すいません、ご主人様…」

また叩かれた(殴られた)。なので今度は慎重に。

「ええと〜、そうだご主人様のお好きなドリアンがあります!」

「いつ俺がそれを好きだっつったよ!だいたい何でまともな食いもんがねぇのにそんな特殊なもんがあんだよ!!」

おかしいだろ、と睨む視線が恐ろしい。どうやら慎重さは空振りのようだ。なので私はしょうがないな、と溜め息をつく。

「何言ってんですか。今時ドリアンなんて、ちょっとでかいスーパーに行けば売ってますよ?」

「……お前よっぽど俺に殺されたいらしいな」

きゃー、ご主人様の向こうに鬼が!鬼が見える!

ささっと頭を庇って後退りそっと見上げる上目遣い。そんなヤドカリのようになった私を、気付けば呆れたように眺めてるご主人様。

「あの〜」

そっと頭を抱えたまま口を開けばまたギロっと一瞥をくれてから、物凄い溜め息が聞こえてきた。

「ホンットに役立たずなメイドだな」

「はあ、すいません」

「もういい」

下がれ。

その言葉に内心よっしゃラッキー!とは思ったが(いつもならネチネチ文句を言われる)、しかし専属メイドとしてそういう訳にもいかないだろお腹空かせたご主人様をそのままになんて出来ないわ!、と思い直してそっと私は膝を着く。

「…何でもご主人様のお好きなものを買って参ります。何かありませんか?」

胸に手を当てて申し訳なさそうに(半分以上ポーズだが)伺えば、殊勝な私の様子に虚をつかれたのかご主人様は目を見開く。

「…珍しい、どうした」

珍しいって…私はいつもご主人様の為なら何でもしてんじゃないですか失礼ですよ?、と喉元まで出かかるが、思い返せば大した事もしてないな、と頭を垂れる。
何でもっても肩もみとか位だな。あとは掃除して壺割ったりアイロンかけて服焦がしたりそれと…やべ、落ち込む。
垂れた頭がどんどん下がる。
私、メイド何年やってんだろ。
そんな私の負のオーラが出たのかまた聞こえる近い溜め息に、おずおずと顔を上げれば目の前にはご主人様のドアップ。
いつの間にこんな近くに!とビビりながら更に後退ろうとすれば、すいっと伸びた手が私の顎を掴む。逃げられない。
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