カレーの神様
□カレーの神様 2皿目
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「これからって、このままです。学校も今まで通り通いますし。」
私もお茶を飲もうと湯のみに口をつける。
…熱い。自分が猫舌なのを忘れてた。
「…そう言う神田先輩は何故あんな所にいたんですか?」
そして何故うちでご飯食べてんですか。
そう言いたかったがあえてそこは言わない。
しかし先輩は益々眉間に皺を寄せて、私から目を逸らしとんでもない事を言った。
「…寮、おん出てきた」
「は?」
今度は私が先輩の顔を凝視する番だった。
「出てきたって、何でまた」
「…色々あってな」
相変わらず私と目を合わさず、どこか遠くを見るように答える。
「色々って、寮を出てどうするんですか?
あ、でも実家はそう遠くないですよね?」
私の家から電車で一駅、自転車だと20分のリナリーと幼馴染みだからそんなに遠くない筈だ。あれ、でもそしたら何でこの人は寮なんて入ってんだろ。高校の隣りの敷地の大学は、ここからそんなに遠いわけはない。
「実家には戻らん」
「戻らんって…」
あなた一体どこの頑固親父ですか。
「じゃあどうするんです?」
寮もだめ、実家もだめ、一体どこで寝る気なんだ。
思わず声が大きくなる私に、先輩は口端を上げてニヤリと笑った。
あ、何か嫌な予感。
「えみる、お前んち泊めろ。」
「はあ?」
素っ頓狂な声が出た。
さっきお茶で火傷した舌がひりひりとして痛い。
「な、何言ってんですか先輩!あちっ」
あまりの驚きにテーブルをドンと叩くと、湯のみが倒れてお茶が手にかかった。
「おい!」
お茶でびしょ濡れの私の右手を先輩は慌てて持ち上げる。その拍子に湯のみが転がり先輩の膝に落ちた。テーブルに広がるお茶の滴が追い討ちをかけるようにその服を濡らす。
ちょっと待って。何この展開。
「ご、ごめんなさい!」
焦って謝るがこの状況は何だかマズい。
「いいから冷やして来い。」
テーブルの上の布巾で私の手を軽く拭き、先輩は促すように立ち上がる。
仕方なしに私も頷いて台所へと行き流水で手を冷やした。
…うう、何かヤバい展開な気がする。
五分ほど手を冷やして居間に戻ると、神田先輩は布巾でテーブルを、そばにあったティッシュで床を拭いてくれていた。
「すいません、ありがとうございます」
びしょ濡れになった布巾を受け取ろうと半ば無意識に右手を伸ばすと、その掌ごと握られた。
いや、火傷した手を握られると痛いんですけど。
先輩の体温が、せっかく冷やした手にしみる。
「俺の服を濡らした代償は大きいぞ?」
見上げた先輩のニヤリと笑う顔が目に痛い。
その上更に火傷した舌も右手も、そして頭も痛かった。