月のかげする水
□月のかげする水 第1壊
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「かなちゃん、また君は!」
「破壊神と呼んで下さい」
「いや笑えないから、それ!」
コムイが怒っている。
怒るこの人を見ていると、笑えてくるのは何故だろう。
首を傾げて考えていると、全く反省の色が見えないと気付いたのか、コムイは溜息をついた。
「…もういいです。
次こそは頼むよ、本当に!」
本当に、の所を強調した後、コムイはしっしっと私の退室を促した。
「うぃーっス。気を付けま〜す」
そう言って室長室を出る時にまた後ろから溜息と共に「水分補給はちゃんとしてね!」と聞こえてきた。
「ま〜た何か壊したんさ?」
怒られた気分直しに図書館に行くと(いや気分は絶好調ですが)、ラビっちが私に声をかけてきた。
「いやぁ、ラビっちだってよく壊してんじゃん」
「オレはかな程じゃないさ。んで、今回は何?」
「う〜ん、どっかで聞いた事あるような画家の、時価億単位の絵?」
私の答えに固まるラビっち。
「あとその建物を半…いやちょっとだけね」
「…今半壊って言いかけなかった?」
うん本当に半分までは壊してない。建物の3分の1は残ってた、はず。多分。
自らが壊した建物を思い出しながら首を傾げてると、ラビっちまで溜息をつく。
「…なんスか」
「…いつか教団はかなの作った修理代で破産するさ」
「あらいやだっ、失礼しちゃうわね!」
私がひどいわっと言うように頬に手を当てると、その喋り方気持ち悪い、と言われた。ちっ。
「まっ、それはいいんだけどさ」
「いいのかよ!」
私の言葉を返すラビっちに、ナイスツッコミ、と親指を立てると、彼もニヤリと親指を立ててきた。うん、いいヤツだな、こいつ。
「んで、本日のオススメは?」
2人で立てた親指同士を重ね合わせて聞くと、またニヤリと笑って三冊の本を渡してきた。
「これさ〜」
渡された本に目を走らす。
「ええと、『心理学の方程式』、『日本の妖怪大図鑑』と、『ジェシーの気だるい微睡み』…さすがラビっち、私のツボをつくねぇ」
その素晴らしい本のチョイスにうんうんと頷いていると、ラビっちはだろう?と満足気にしている。
「だけどかなって本好きだよな」
こんなにがさつなのに読書が趣味なんて意外さ〜。
「何言ってんの、文学少女のこの私に向かって」
がさつは余計だとばかりにその臑を蹴る。「いっ」と声が聞こえて、ぴょんぴょん跳ねているラビっちを見て、あらウサギさんがいるわ、と言うと恨めしそうに睨まれた。
「『ジェシーの気だるい微睡み』で喜ぶヤツのどこが文学少女さ!」
「官能小説は立派な文学だ!」
ラビっちだって好きな癖に、と二ヤっと笑うとニヤっと返される。
「それにラビっちの本のチョイスに間違いはないからね。いつも助かるよ、ホント」
えへっと笑うと頭を撫でられた。
「そう言って貰えるとオレも嬉しいさ」
「うん、だって自分で探さなくてすむし」
「…あっそ」
がっくりうなだれるラビっちの頭を今度は私が撫でて、くるりと踵を返す。
「ああ、でもいつもありがと」
振り返って言うと、ラビっちは微妙な顔をした。
「…またあの部屋で読むんさ?」
「もちろんっスよ」
にんまり笑うとまたつかれる溜息。
「…ユウに襲われんように気をつけろよ?」
あと水忘れんな?
「あいあいさー」
ラビっちの言葉にビシッと元気良く敬礼して図書館を後にした。
そして私の向かう先はいつもの私の読書室、じゃなくて神田ユウ様の部屋。