月のかげする水

□月のかげする水 第1壊
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「ユウちゃんいませんかー、いませんねー」

ノックもせずにその扉を開ける。
もちろん私は彼が任務でいない事は知っていたので、家具はほとんどベッド位しかないそのベッドにぴょんっと飛び乗り、すぐ横に持参したお菓子と、いつも持っているボトルに入った水を置く。
寄生型のエクソシストである私にとって、水は命だ。なぜなら私のイノセンスは水を使う。しかも私の体の中の水を。おかげでいつも私にかけられる言葉は、水分補給に関する事が多い。

「難儀な体じゃのぅ」

ベッドの上でその水をごくごく飲んで、呟く。
そうしてばふっとベッドに倒れ込んだ。

「あ〜、ユウちゃんの匂い〜」

いつもの石鹸の香りに顔がにやける。

「えへへ、好き好き〜」

ごろごろと頬摺りする。
そう、私は彼が好きなのだ。もっとも片思いではあるが。
だからいつも少しでも彼に会いたくて、読書はここでするようにしている。初めのうちは私を追い出そうとしていたが、最近では諦めたのか、面倒になったのか、あまり出ていけとは言われなくなった(いや大抵は言われるけど。そう何度もじゃない)。

「…ユウちゃんになら襲われてもいいのにな〜」
さっきラビっちが言ってた事を思い出す。もちろん冗談だろうけどね。
はぁと乙女のように溜息をつきながら、私は借りてきた本を手に取った。





ベッドが揺れている。

「……い」

体が揺れている。

「…おい」

誰かの声が聞こえてくる。

「おいチビ!」

ぺしんっと頭を叩かれた。

「何だよぉ、地震?」

「何わけわからん事言ってんだ」

体の揺れが地震を連想させて、むくりと起き上がると、そこには団服姿の神田ユウ。

「テメェはどうしていつもここで寝てんだよ!」

不機嫌そうに睨まれた。

「んあ〜、あっ!」

覚醒しきれない頭がはっとする。

「涎!」

「あん?」

「私の貴重な水分がっ」

慌てて垂れている自分の涎を拭く。
その私の様子を見てユウちゃんは溜息をついた。今日はよく溜息をつかれる日だな。私もついたけど。

「人のベッドで涎垂らして寝てんじゃねぇよ」

しかも何だ、また菓子まで持ち込みやがって。ベッドの上で食べんな、粉が落ちんだろ。

「ああ、そうっスね」

ユウちゃんのそんな小言を聞き流し、私はまた水分補給だ。

「…お前人の話聞いてんのか?」

ギロっと険しい顔で睨まれる。

「聞いてま〜す」

その顔をじーっと見つめて返事をすると、またぺしんっと叩かれる。

「早く出ていけ」

「ヤダ。出てったらユウちゃんの顔が見れない」

頬を膨らまして言うと、呆れたようにまた聞こえる溜息。

「その呼び方で呼ぶんじゃねぇって言ってんだろうが。それにお前に見られても嬉しくねぇよ」

「まったまたぁ」

「…殴られてぇのか?」

「ユウちゃんならいいよ」

「……」

一連のやり取りに諦めたのか、ふいっとそっぽを向いて団服を脱ぎだす。

「えっ、何?私襲われちゃうの?」

よっしゃ、望む所だ!

ベッドの上に思わず立ち上がると、平行になる目線。

「…風呂だ」

そんな私をユウちゃんは怪しげな物でも見るように見つめてから背を向けた。

「なら私も行く〜。ユウちゃんと一緒に入る〜」

ぴょんっとその背中に飛び乗ると振り落とされた。ひどいっス、ユウちゃん。

「テメェなんかと一緒に入っても楽しくねぇ」

「えっ、本当に一緒のお風呂に入れると思ってんの?」

男女別々だよ?

「……本当にお前うざい」

「あっでもどうしてもって言うなら、一緒に入ってあげてもいいよ」

にっこり笑ってそう言うと、ますます眉間に皺を寄せて、今度こそ部屋を出ようとした。

「そうだ、ユウちゃん!」

声をかけると嫌そうに振り返る。

「お帰りなさい!」

「……ああ」

私の言葉に少しだけその皺が緩む。
そしてバタンと閉まる扉。

うふふふ〜。
今日もユウちゃんに会えた。嬉しいな。






私の好きなもの。
読書とユウちゃん。
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