月のかげする水
□月のかげする水 第2壊
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目が覚めたら真っ暗だった。
んあ、寝過ぎたか?今何時?ユウちゃんはどこ?
ガバリと起き上がろうとしたらくらっときた。
…やべぇ、水、水
近くに置いてあったはずの水に手を伸ばすが、ない。緩慢な動きで辺りを見渡しても見当たらない。
う〜わ〜これ何かの罰ゲームかよ。しかも私限定の。
とりあえず水を飲まなければどうにも動けないので、這ってでも水のある所(この際トイレでもよし)に行こうと、ベッドから這うように足を下ろす。
…あれ?
丸い筒状のものが下ろした足に触れた。と思った時にはもう遅い。
バキッ
私の乗った圧力で、ボトルの蓋が吹っ飛んで、中の水がどばーっと広がる。
ヤバい!ユウちゃんに(また)怒られる!
焦って立ち上がると、またくらっときた。
うわお、こっちもヤバいっス。
そう思いながらも体は動かず、私はそのまま前のめりに倒れた。
床に倒れて足元を見ると、まだボトルに少し水が残っているようだったが、体に力が上手く入らない。
…昨日の任務、ちょっと張り切り過ぎたかなぁ。もともと2人の任務だったはずなのに、相方が怪我しちゃってさ、ほとんど私1人でAKUMAをやっつけたんだよね。ちくしょーおかげで水分量が減りまくりだぜコノヤロー。
思ってたより消耗していたらしい水分に溜息をつく。本当に、
「…難儀な体じゃのぅ」
「全くだな」
上から降ってくるこの声は、
「ユウ、ちゃん」
少し顔を横にずらせば、そこにはユウちゃんの足、見上げればユウちゃんの顔。不機嫌そうではあるが。
「ったく、さっきはベッドで寝てたと思ったら、今度はこんな所で寝てやがる。寝相が悪いにも程があるな」
「…いやいくらなんでもここまで悪くないって」
呆れ顔のユウちゃんにそうつっこむと、わかってるよって言いながら、私を起こしてくれた。うう、優しいな。さすが私の王子様。
「水」
いつの間に拾ったのか、残った水のボトルを渡される。
「口移しじゃないと飲めません」
言うと起こしていた手を離された。
「いてっ、ひでーやユウちゃん!」
瀕死のお姫様に何て事を!と抗議すると、誰が姫なんだよ、と言われた。
それでもブーブー文句を言う私に、ユウちゃんは溜息をついて(またかよ)私の体を再び起こし、そうして水のボトルを口まで持ってきてくれた。
「口移しじゃ…」
「いいから飲め」
かぽっと私の口に押し付けて、ボトルを斜めに傾ける。
私の口内に水が押し寄せてきてちょっとむせそうになるが、何とか飲み込んでいくと、体中にその水が行き渡っていくのがわかった。
ごくごくと残りを全て飲み干し、やっと一心地ついていると、不意に体が持ち上げられる。
「ユ、ユウちゃん?」
いつもより高い視界と石鹸の香り、近いユウちゃんの顔。
お姫様だっこだ。
ああその首に抱きつきたいぜ。
そうは思っても未だ体に力が入らない。ただその(かっこいい)顔を見上げるだけ。
床に零れた水がぱしゃんと跳ねる音がして、どさりとベッドに下ろされた。
「…寝てろ」
水持ってきてやる。
離れていく腕を寂しく感じて、辛うじて指先で服の裾を掴む。
「…チャンスだよ、ユウちゃん」
「は?」
「今なら私を襲えるよ?」
力無くニヤリと笑えばあほ、と言われた。むむ。
「テメェみたいなチビを襲う趣味はない」
そう言って出て行ってしまった。