月のかげする水
□月のかげする水 第2壊
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悪かったっスね、発育不良で。
閉じられた扉に悪態をつくも、相手がいなければどうしようもない。
ああでも、何だかんだ言ってもユウちゃんは優しい。結局こうして寝かせてくれたり、水を取ってきてくれたりする。そんなちょっとツンデレな所もまたいい。
「やっぱ好きだぜちくしょー」
私の呟きが月明かりの暗闇に響いていた。
「コムぴょん、私ってセックスして平気なの?」
「ぶはっ」
室長室のソファーでだらだらと横になりながらされた質問に、コムイはコーヒーを吹き出した。
「きったねぇな。何してんの、コムイ」
点々と落ちているコーヒーの染みに眉間に皺を寄せる。
「かなちゃんが変な事言うからでしょ!?」
げふげふむせながら睨まれる。
「ええ〜だってさぁ、セックスって結構水分使うじゃん?」
「女の子がそんな直接的な言葉を使うんじゃありません!」
また怒られた。
「そんなら何て言えばいいんスか」
性交渉?にゃんにゃん(古っ)?ヤる?
「…どうしてキミはそう…いやいいよ、もう」
諦めたような顔をされた。
「でも何でいきなりそんな事聞くの?」
書類に零れたコーヒーを拭きながら、コムイは聞いてきた。
「だってさ〜、ユウちゃんに襲われた時、大丈夫かなぁって思ったんだよね」
「…襲われたの?」
今度はコムイが眉間に皺を寄せる。
「ばっかだなぁコムイ。もしもの話だって」
私の返事に曖昧な笑みを浮かべる。
「だいたいさぁ、もしセックスしたら水分出てっちゃうだけじゃん?それって私にとっては結構、命懸けじゃね?」
そう言いながら横にある水を口に含む。
コムイは私の話を聞きながら、持っていたペンを机に置いて、頬杖をついた。
「かなちゃんは神田くんとそういう関係になりたいわけ?」
「もちろんだぜ」
即答してぐっと親指を立てながら、ニヤっと笑うと、はあと溜息が聞こえる。
「それはかなちゃんにはまだ早いよ」
「私リナちゃんと同い年だよ?」
「リナリーにはもっと早いです!」
ドンっと机を叩く。このシスコンめ。
「でもさ、コムイは早いって言うけど、じゃあいつならいいのさ」
「それは…」
ちらりと横目で睨むとちょっと口ごもる。
「ねぇコムイ」
寝転んだまま見上げる天井。あっあんな所に足跡がある。気持ち悪いな、おい。
「早いっていっても、」
私にはあんまり時間がないかもよ?
その言葉にコムイが固まる。
「エクソシストになった時点で長生きは諦めた。幸せな家庭も子供もいらない。だけどどうせ短い命なら、好きな人と、女として生きたい」
「かなちゃん…」
固まっていたコムイが私の名を呼ぶ。
その声に私はコムイへ視線を向けた。
「…そのセリフも早いと思うよ?」
その言葉に何だとぅ!と怒ると、コムイは溜息と共に立ち上がり、私の転がるソファーへと向かって来る。
「まだまだキミは子供だ。セックスも、諦めるのもまだ早い」
大きな手のひらが私の頭を撫でる。
「…それって諦めずにユウちゃんとセッ…」
「違います」
何だよぅ、違うのかよ。
ぷうっと膨らむ頬にコムイは苦笑する。
「子供がそんな人生諦めたような事いうのは早いって事!」
ぴしっとデコピンされた。地味痛い。
「…子供じゃないっス」
「子供はみんなそう言うよ」
笑顔でそう言われ、ムカついた。
「うっさいな、バカコムイ」
そんならあんたはおっさんだ。ざまーみろ、バーカバーカ。
ついた悪態にコムイの顔が引きつる。
「そういう所が子供なんだよ!」
「ならコムイ、私を大人にしてよ」
「は?」
その言葉に目を剥いて私を見つめるコムイ。
「いやだからさ、薬かなんかでボンキュッボンなナイスバディに…って何考えた」
おいコムイ。
睨み上げると視線を逸らされた。
「…変態」
「いや違うから!」
誰かー、ここに変態がいまーす。
私の困った事。
水がないとどうにもならない。