月のかげする水
□月のかげする水 第3壊
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「…そのうち何とかなんだろ」
フォローありがとう。
嬉しくてぎゅっと頭を撫でるその手を握ると、すぐさま引っ込められる。まあひどい。
「そんな事でコムイに頼んだのか?」
「そうっス」
びしっとユウちゃんに向けて親指を立てると、その指を弾かれる。暴力はんたーい。
「…ならもう言わねぇよ」
またつかれる溜息と共に言われた言葉に私は感激した。
「ユウちゃん、それは今のままの私で十分って事ね?」
「あほか」
胸の前で両手を組み合わせ、潤んだ瞳(っぽい感じ?)で熱い眼差しを向けると、辛辣な一言。うう、やっぱりひでーや。
「全く」
座席の背もたれに体を預けて、ユウちゃんは困ったように私を見つめる。
「テメェの考える事は理解不能だ」
「…人間同士、全てを理解し合うのは無理な事なのだよ」
でしょ?と笑うと舌打ちされた。なぜだ。
「でもさ、一つユウちゃんに理解して欲しいのは、私がユウちゃん大好きって事」
えへっと照れながら言うと心底呆れた顔をされる。
「…やっぱりあほだな、お前は」
「乙女の愛の告白をあほ呼ばわり?」
ひどいわ!泣いちゃうからね!と泣き真似。いや実際泣くと水分勿体ないし。
「もうあほは黙ってろ」
「…チビの次はあほですか?」
あっさり泣き真似を止めた私が言われた言葉に反応すると、黙って頷かれた。
「何それ、愛する彼女に向かって何て事を!」
「彼女じゃねぇし!」
おおツッコミのレスポンスいいね。
「…いいからもう本当に黙れ。そんで水飲んで寝ろ」
まだ任務地に着くまでには時間がかかるしな。
「ええ〜もっとユウちゃんとお話したいよぅ」
「断る」
即答かよ。
黙り込んで目を瞑ってしまったユウちゃんに、もう何を言っても相手して貰えないと思った私は、仕方なく傍らに置いてある水を一気飲みしたのだった。
揺れる汽車の振動が眠気を誘う。
夢の中でジェシーとマイケルの顔が、いつの間にか私とユウちゃんになっていた。
「うふふ〜。いやん、ダメよマイケル、そんな所触っちゃ〜」
「ろくでもない夢見てんな」
ぐにっ
腹にかかる圧力に、はっと夢から覚めた。
「あっマイケル」
「誰がマイケルだ、誰が」
「えっ、ユウちゃんが」
「…いいから起きろ。もうすぐ着く」
そう言って私の腹の上の足をどけた。
どうやら座席の下に転がる私を踏んづけて起こしたらしい。
「…私はマットレスじゃないっスよ?」
上体を起こして抗議すると「マットレスの方がまだマシだ」と言われた。私はマットレス以下かよ。
ぶちぶち文句を言いながら、立ち上がって団服に付いてしまった汚れを払っていると、ユウちゃんが背中側を払ってくれる。そして睡眠で消費した水分を補う為に新しいボトルを開けようと(寝る前に一気飲みしたので)、荷物を置く網棚に私が手を伸ばそうとしたら、横からその新しいボトルを無言で渡された。もう取って準備してくれてたらしい。うん、こうゆうさり気ない所が好きなのだよ。
「ありがと、ユウちゃん」
にっこり笑って水を一気飲みする私を、ユウちゃんは複雑そうな表情で見ている。
「…何?」
何か言いたげなその表情に問いかけると、一瞬はっとした顔をして、すぐいつもの仏頂面に戻ってしまった。そうしてふぃっと私から顔を背ける。
「?」
変なの。
…私もしかして何か変な事寝てる時にしちゃったのかな?寝ぼけてユウちゃんに抱きついたりとか、匂いを嗅いだりとか…それ、いつもしてる事じゃん。
「だから気にすんなよ」
水を飲みながらその肩を叩く。
「…何言ってんだ?」
本当に何言ってんだこいつと言う目で私を見る。
「だから抱きついたり匂い嗅いだりすんのはいつもの事じゃん?」
「…意味わかんねぇよ」
そう言って溜息をつく。
「私寝ぼけてユウちゃんに何かしたんじゃないの?」
ん〜?と考えながらユウちゃんを見てると、また顔を逸らされた。何だかな、もう。
ユウちゃんにしては珍しいその曖昧な様子に、私が問い質そうと口を開きかけた時、汽車が目的地の駅へと着いた。
「…降りるぞ」
そう言ってユウちゃんはさっさと行ってしまう。
後に残されたのは私と、私の荷物と、水達。
「…ちょっと待って!ユウちゃん!」
手伝ってくれ〜とその背中に叫ぶ。
だって水って結構重いんだぜ?
私の楽しい事。
ユウちゃんとのおしゃべりと汽車の旅(任務だけどね)。