月のかげする水

□月のかげする水 第4壊
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そう言いながら眉間に皺を寄せるユウちゃんが、私の傍へとやってくる。

「その燃えてしまった木からは水の音が聴こえない」

もう死んでるんだ。
体中の水が干からびて、全ての水分がなくなって、そうして倒れている。苦しかっただろう。徐々になくなる水分を自分じゃどうする事も出来なくて、ただゆっくりと死んでゆくのを待つだけだ。私にはわかる。それはとても辛い事だと。

そう言いながら、目を閉じて木に抱きつく私の前に落ちる、影。
近くにユウちゃんの気配を感じて顔を上げた時、その距離は、ゼロの距離になった。




「……もう一つ、コムイに頼まれた事がある」

至近距離で動くその唇を、信じられない気持ちで眺めている。

「お前と、付き合ってやれ、ってな」

そうして目の前の口端が上がった。途端にぶわっと周りの音が聞こえなくなる位、頭の中が混乱状態に陥った。

今、今、何が起こった?
ユウちゃん私に何をした?
そして何を言っている?
コムイが何か頼んだとか何とか…ああ、私と付き合えと、そう頼まれたと、そんな事言ってたな。
でも何でコムイがそんな事いうんだ?そしてユウちゃんは頼まれれば何でもするのか?ちょっとおかしくないか?それ。
そんなら私が頼めば良かったのか?そういや私ユウちゃん好き好き〜っとは言ってたけど、付き合ってって言った事ない。
しまった。こんな事ならもっと早く「付き合って下さい、うふん」とか言っておけば今頃は大人になっていたかもしれないのに。ああ勿体ない。ああ失敗した。
それにしてもさすがはコムイ。私を大人にしようとしてくれているのね?ナイスバディになる薬は渡さなかったくせにキチンと考えてくれていたんだわ(はぁと)!素敵!もう今度からコムイ様って呼んじゃう!って…んん?ちょっと待て。よく考えろ、私。今ユウちゃんは「付き合ってやれ」と頼まれたと言っただけで「付き合う」とは言ってない。うん、そうだ。よく気が付いた私。さすがだ。

「あったまいいよね、私!」

「はあ?」

突然の自画自賛にユウちゃんは怪訝な顔をする。

「ねぇねぇユウちゃん、私って頭いいと思わない?」

同意を求めると首を横に振りながら「いやあほだろ」と言われた。ひでーや。

「んでもユウちゃんは私と付き合ってくれるんスか?」

首を傾げながらその(いかす)顔を覗き込むと、ニヤリと笑う。

「それは今夜のお前の働きによるな」

マジで!?
ひゃっほーい。

「わかった!頑張るね!今夜は寝かさないぞっ?」

そう喜びながら親指を立てて言うと、ぺしっと頭を叩かれた。

「あほ。何を言ってんだお前は。任務に決まってんだろ」

「ええ〜、違うの?」

ジェシーとマイケルごっこしようよぅ。

口を尖らせて言う私の唇をむにっと掴む。うっ、これじゃ喋れない。

「もうジェシーはいい」

何ですと!?

しかし口には出せず。

「今回の任務で何も壊さなかったらな」

私を見つめるその顔は楽しそうだ。

…それ、かなり難しいっス。

不服そうな私の気持ちに気付いたのか、またニヤリと口端を上げるユウちゃん。

「そしたら付き合ってやる」

ちくしょー、やってやるぜ!








私に信じられない事。
もしかして、お目付役から恋人役に昇進?
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