月のかげする水

□月のかげする水 第5壊
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燃える木の傍まで戻ると、また横から数体のAKUMAが襲いかかってきた。

「邪魔すんな!」

水の膜で覆われた私の拳が、近距離のヤツらを吹き飛ばす。そして水鎖で少し離れたヤツらを切り裂く。

「水魂!」

口からふうっと風船のように大きな水の玉を作り出し、木へとぶち当てると、その木をくるむように水がそこで玉のまま揺らめく。

「……嘘」

それにもかかわらず、その炎は消えなかった。

「後ろだ!」

少し離れた所から聞こえるその声に振り返ると、いつの間にか真後ろにAKUMAがいる。ほとんど無意識に発動された水が私の背中を覆って守り、それから拳でまた吹き飛ばす。

ああもう、鬱陶しい!

視線を木に戻しても、未だ包まれた水の玉の中で燃え続ける木。それどころか、少しずつ水の玉が小さくなっているのに気が付いた時、私はぞっとした。

やだ、何これ。消えないよ。

水分が音を立てて蒸発していく。
木が徐々に死んでいく。

その様子に怖くなってまたボトルから水を飲むが、手が震えてうまく飲み込めない。

まるで、私みたい。

少しずつ小さくなる水の玉。そして減少していく木の中の水。
視界に広がるその光景は、私にとって地獄のよう。

…やだ、もう、止めて。
考えたくない。
考えさせないで。

やがて全ての水を奪い去り、木が燃え尽きた。

ああ、嫌!

そう思った時、命を奪い去った狐火が私を包む。

「嫌っ!」

「かな!」

ユウちゃんの声が聞こえるが、炎の中心にいる私からはその姿が見えない。
声のする方向へ手を伸ばすが、指先まで私を包む青い炎の範囲が広くなるだけで、何も触れる事が出来ない。

ああ、私の中の水が奪われていく。

「かな!」

ユウちゃん。
あんまり私の名前呼んでくれないのに。嬉しいなぁ。

怒鳴りつけるような必死な声が耳に優しい。

…まだ、生きたい。
ユウちゃんと、生きたい。
生きて、ユウちゃんと…

炎の中、視界の青さに目を凝らす。そうして中心にいる私が見つけたものは、この火のイノセンスの欠片。

大分、水分取られちゃってるから上手くいかないかもだけど…燃え尽きるよりいっか。炭になったらかっこわるいもんね。

その欠片を握り締める。

「昇華!陽炎(かげろう)!」

ぶわっと身体中の水分が蒸発していく。
私の身体が水蒸気となり昇華していく。
そして、私の身体は自由になった。




「かな!おい!かな!」

身体が動かない。
せっかくユウちゃんが私の名前を呼んでくれているのに。
指先一つ動かせなくて、瞼が重くて、唇を震わせる事も出来ない。
合図したいのに。ユウちゃんを見たいのに。大丈夫だよって言いたいのに。
ちょっと水分使いすぎた。今までで一番ヤバいかもね。

そう思っているとぐいっと顎を持ち上げられた。
ゆっくりと水が私の喉を通過する。
一口こくりと飲んではそれは離れ、そしてまた一口と少しずつ補給されていく。
何度も何度もそれは繰り返されて、顎を伝う零れた水の感覚に、ふるりと身体が震えた時、やっと瞼が動いて目が開く。

「ユ、ウちゃ…」

「…黙ってろ」

そうして重なる唇から水が私へと注ぎ込まれる。
その柔らかい感触から注がれてくる水はとても甘い味がして、今まで飲んだどの水よりも身体に浸透していくようだった。

…やっぱりユウちゃん、大好き。






私の怖いもの。
死に至るまでの時間。
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