月のかげする水

□月のかげする水 第6壊
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「大丈夫なら。そろそろ起きろ」

「…ひどいわ、マイケル」

「だから俺はマイケルじゃねぇ」

睨まれながらも起き上がる。
少しくらっとはきたがまあ、動ける範囲内ってヤツ?
横にある水のボトルを一気飲み。そしてついでにもう一本手に取ろうとして気が付く。

水、増えてなくね?
確か私が寝る前に、ユウちゃんが水取ってくるとか言ってたような、ような、ような?んん?

首を傾げているとユウちゃんが不審そうに私を見ていた。

「どうした」

まだ動けないか?

私が取ろうとしていたボトルを、ユウちゃんが代わりに拾って渡してくれる。

「…ねぇマイケル」

「…何だよジェシー」

おおぅ!ユウちゃんが乗ってくれた!一体どうした、ユウちゃん!素敵よ、ユウちゃん!

目を輝かせてそんなユウちゃんを見上げると、はあ、と溜息が聞こえる。

「…あほに付き合うと疲れる」

「ええ〜、そんな事いわないでよぅ」

ユウちゃんの言葉に私がむむぅとした時、思い出した。

「ユウちゃん!」

「ああ?」

不機嫌そうに腕を組んで返される返事。いや「ああ?」って返事って言わないよね。気にしないけど。別に今更だし。

「私と付き合ってくれる約束!」

覚えてるよね!?

ぴょんっとベッドから飛び降りてその前に立つ。

「……」

「私今回は何も壊さなかったよ?ねぇねぇ、約束したよね!」

「……さあな」

ガーン。
ひどい、ひどいわマイケル、じゃねぇやユウちゃん。いやそりゃ私あんまりAKUMA倒さなかったけど。建物も壊してないし、物も破壊してない。おまけにイノセンスをゲットしたじゃん!ちゃんと!死にかけながらも!

そう言ってユウちゃんの胸倉を掴む。と、叩かれるその手。そして地を這うようなユウちゃんの声。

「…何も壊さなかっただと?」

あり?

急に視界に天井。
背中には程よくきいたスプリングのベッド。

「本当にそう思うのか?テメェは」

ありり?

ユウちゃんの顔と天井が重なる。
高い位置に結われている綺麗な長い髪が、さらりと私へ落ちてくる。
そして私の顔の真横にはユウちゃんと私の重なる両手。

今、私、ひょっとして、押し倒されてる!?
でも何だかそんな色っぽい雰囲気じゃない。ユウちゃん、本気で怒ってるっぽい。

「あの〜、ユウちゃ…」

「テメェは俺が好きなんだろ?」

遮られて言われた言葉にうんうんと頷く。何か声を発しにくい感じだ。
そんな私の手にぎゅっと込められる力。

「なら、テメェを壊すような事をするな」
「俺の目の前で壊れたようになるな」
「俺の心を壊すな」

わかったか。

ぐっと近い顔。
強く真っ直ぐな瞳。
脅すように睨まれているのに、全然私は平気だった。
だって何か、いつものユウちゃんと違う。いつも私をバカにしたようなユウちゃんと違う。
声が違う。瞳が違う。握られた手のひらの温度が、違う。

「…約束しろ」

もう、無茶はするな。一か八かとか、そんな賭みたいな事するな。俺が何とかしてやる。だから、

「約束しろ」

息がかかる程の距離。
この距離はとても嬉しい。

「…それを約束したら、私と付き合ってくれる?」

そう聞いたらユウちゃんは私の目を見つめたまま、小さく「ああ」と言った。

「あのね、ユウちゃん」

私、あの青い炎に包まれた時思ったの。まだ生きたいって。まだ生きてユウちゃんといたいって。それで生きてユウちゃんとセッ…

ばこっ

「何で叩くっスか!?」

「今変な事言おうとしただろうが!」

「え?セックス?」

「…テメェは本当に最悪だな」

溜息と共に離れていくユウちゃんの体。
さっきまでのぬくもりが残る手のひらが寂しくて、にぎにぎと動かす。

「…襲わないの?」

押し倒しといてそりゃないぜ、と見つめれば、鼻で笑われた。うわムカつく。
だけど手が伸びてきて、私を起き上がらせてくれる。

「…テメェがちゃんと約束を守れたら考えてやるよ」

うしっ!任せとけ!






私が約束した事。
あれ、これ結局付き合うって事でいいんだよね?いいんだよね!?
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