月のかげする水
□月のかげする水 第6壊
2ページ/2ページ
「大丈夫なら。そろそろ起きろ」
「…ひどいわ、マイケル」
「だから俺はマイケルじゃねぇ」
睨まれながらも起き上がる。
少しくらっとはきたがまあ、動ける範囲内ってヤツ?
横にある水のボトルを一気飲み。そしてついでにもう一本手に取ろうとして気が付く。
水、増えてなくね?
確か私が寝る前に、ユウちゃんが水取ってくるとか言ってたような、ような、ような?んん?
首を傾げているとユウちゃんが不審そうに私を見ていた。
「どうした」
まだ動けないか?
私が取ろうとしていたボトルを、ユウちゃんが代わりに拾って渡してくれる。
「…ねぇマイケル」
「…何だよジェシー」
おおぅ!ユウちゃんが乗ってくれた!一体どうした、ユウちゃん!素敵よ、ユウちゃん!
目を輝かせてそんなユウちゃんを見上げると、はあ、と溜息が聞こえる。
「…あほに付き合うと疲れる」
「ええ〜、そんな事いわないでよぅ」
ユウちゃんの言葉に私がむむぅとした時、思い出した。
「ユウちゃん!」
「ああ?」
不機嫌そうに腕を組んで返される返事。いや「ああ?」って返事って言わないよね。気にしないけど。別に今更だし。
「私と付き合ってくれる約束!」
覚えてるよね!?
ぴょんっとベッドから飛び降りてその前に立つ。
「……」
「私今回は何も壊さなかったよ?ねぇねぇ、約束したよね!」
「……さあな」
ガーン。
ひどい、ひどいわマイケル、じゃねぇやユウちゃん。いやそりゃ私あんまりAKUMA倒さなかったけど。建物も壊してないし、物も破壊してない。おまけにイノセンスをゲットしたじゃん!ちゃんと!死にかけながらも!
そう言ってユウちゃんの胸倉を掴む。と、叩かれるその手。そして地を這うようなユウちゃんの声。
「…何も壊さなかっただと?」
あり?
急に視界に天井。
背中には程よくきいたスプリングのベッド。
「本当にそう思うのか?テメェは」
ありり?
ユウちゃんの顔と天井が重なる。
高い位置に結われている綺麗な長い髪が、さらりと私へ落ちてくる。
そして私の顔の真横にはユウちゃんと私の重なる両手。
今、私、ひょっとして、押し倒されてる!?
でも何だかそんな色っぽい雰囲気じゃない。ユウちゃん、本気で怒ってるっぽい。
「あの〜、ユウちゃ…」
「テメェは俺が好きなんだろ?」
遮られて言われた言葉にうんうんと頷く。何か声を発しにくい感じだ。
そんな私の手にぎゅっと込められる力。
「なら、テメェを壊すような事をするな」
「俺の目の前で壊れたようになるな」
「俺の心を壊すな」
わかったか。
ぐっと近い顔。
強く真っ直ぐな瞳。
脅すように睨まれているのに、全然私は平気だった。
だって何か、いつものユウちゃんと違う。いつも私をバカにしたようなユウちゃんと違う。
声が違う。瞳が違う。握られた手のひらの温度が、違う。
「…約束しろ」
もう、無茶はするな。一か八かとか、そんな賭みたいな事するな。俺が何とかしてやる。だから、
「約束しろ」
息がかかる程の距離。
この距離はとても嬉しい。
「…それを約束したら、私と付き合ってくれる?」
そう聞いたらユウちゃんは私の目を見つめたまま、小さく「ああ」と言った。
「あのね、ユウちゃん」
私、あの青い炎に包まれた時思ったの。まだ生きたいって。まだ生きてユウちゃんといたいって。それで生きてユウちゃんとセッ…
ばこっ
「何で叩くっスか!?」
「今変な事言おうとしただろうが!」
「え?セックス?」
「…テメェは本当に最悪だな」
溜息と共に離れていくユウちゃんの体。
さっきまでのぬくもりが残る手のひらが寂しくて、にぎにぎと動かす。
「…襲わないの?」
押し倒しといてそりゃないぜ、と見つめれば、鼻で笑われた。うわムカつく。
だけど手が伸びてきて、私を起き上がらせてくれる。
「…テメェがちゃんと約束を守れたら考えてやるよ」
うしっ!任せとけ!
私が約束した事。
あれ、これ結局付き合うって事でいいんだよね?いいんだよね!?