月のかげする水
□月のかげする水 第7壊
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ゆらゆら揺れる水の膜の中で、ユウちゃんも揺らめく。どうやら中で暴れているようだ。
「…とりあえず、ご飯っスかね」
「メシかよ!」
お、ナイスツッコミ、さすがラビっち。
そう思い親指を立てれば、力無く彼も立ててくれた。
「ええ〜、だってもうアレンは食べてるよ?」
「早っ!」
私が指差した席でご飯をまた食べ始めているアレンを見て、ラビっちがまたツッコミを入れる。うんうん、さすがだな。
そんな彼の肩を叩き、まあとりあえずご飯食べちゃおうぜ?ユウちゃんの蕎麦でも。と言うとそれは無理、と首を振る。小心者め。
「だーいじょうぶだって、ラビっち。ユウちゃんあほだから、あの技破るころには何で怒ってたか忘れてるって!」
「…あほはテメェだろ」
またゴゴゴゴという効果音と共に、ユウちゃんが現れた。
その姿は頭からびっしょりと水浸し。さっきまでユウちゃんのいた所を見ればそこももちろん水浸し。
「おおっ、こんな短時間であの技を破るとは!さすがっス!」
「さすがっスじゃねぇ!」
ぎゅうっ
「痛いっス!」
思いっきり引っ張られる耳。
団服の袖からはポタポタと水が落ち、掴む手の指先からも水が滴る。
「ひでーやユウちゃん!」
何とかその耳を掴む手を外し、ユウちゃんの体温で温もったその滴る水分を、その指先ごとペロリ。お、美味い水だな。
「「!」」
私のこの行動に目の前のユウちゃんと、隣りのラビっちが固まる。
「…かな、何やってるさ?」
ユウちゃんより早く固まりから解けたラビっちから、驚いたような声がする。
「え?水分補給?」
しかも何かちょっと美味そうな水だったし?
更にペロリともう片方の手を取って舐めると、今度はユウちゃんが瞳を見開いた。かと思えば、その手をさっと引っ込めて、ぎゅっと眉間に皺を寄せて睨まれた。
「…水分補給はちゃんと水を飲め」
ぼそりと言って向けられる背中。
「んん?ユウちゃんどちらへ?」
私の問いに「着替えてくる」と言って食堂から出て行ってしまった。
「…ユウちゃん」
その後ろ姿を見送りながら呟く。
「かな、気にすんなさ」
ポンと私の肩を叩くラビっちを見上げる。
「大丈夫、ユウそんな怒ってないさ」
そしてにっこりと笑って撫でられる頭。
「うん…でも…」
「でも?」
「…でも、ユウちゃんのお蕎麦、食べちゃっていいかなぁ」
「蕎麦かよ!」
相変わらずのツッコミの早さに、おおっ!とラビっちに感嘆の視線を向けると、溜息をつかれた。何で?
「…あんまりユウ苛めんなさ」
「苛めてないよ?」
首を傾げて答えても、物言いだけな視線を向けられるだけ。
何だ?と思って眺めていても一向に口を開かないラビっちに、業を煮やした私は彼を置いて席に戻る。
ん〜、何だろう、ユウちゃんもラビっちも。変なの。
そう思いながらユウちゃんの蕎麦を食べようと器を引き寄せると、既にそれはアレンによって食べられていたのだった。
むきー!ユウちゃんの蕎麦は私の蕎麦なのに!
私にとっていつもの事。
なのにユウちゃんが何か変なの。